2014-02-24から1日間の記事一覧

舟を編む(‘13) 石井裕也 <辞書という名の「大海に浮かぶ一艘の舟」を丁寧に編む男の物語>

1 主題と構成が見事に融合し、均衡感を堅持した、邦画界での名画の誕生を告げる秀逸な一篇 特段にドラマチックな展開もない地味な物語の中で、歯の浮くような感傷譚を挿入することなくして、これだけの構築力の高い映画を作った石井裕也監督に最大級の賛辞…

まほろ駅前多田便利軒(‘11) 大森立嗣 <実存的欠損感覚を補填する心的旅程の艱難さ>

1 実存的欠損感覚を持つ二人の男 実存的欠損感覚を持つ二人の男がいる。 一方の男は、不確実性の高い、見えにくい未来に向かうことで欠損の補填をしようと、辛うじて身過ぎ世過ぎを繋いでいる。 しかし、男の心奥に潜むトラウマが、いつもどこかで、その補…

川の底からこんにちは('09) 石井裕也 <「深刻さ」を払拭した諦念を心理的推進力にした、「開き直りの達人」の物語>

1 「開き直った者の奇跡譚」という物語の基本骨格 本作の物語の基本骨格は、「開き直った者の奇跡譚」である。 「開き直った者の奇跡譚」には、物語の劇的変容の風景を必至とするだろう。 独断的に言えば、物語の劇的変容の風景を映像化するには、コメディ…