2015-06-01から1ヶ月間の記事一覧

罪の手ざわり(‘13) ジャ・ジャンクー <「ルールなき激しい生存競争」―― 「人治国家」という構造化された「負のシステム」>

鮮烈な冒頭シーン。 トマトを運ぶ大型トラックが横転し、路傍に大量のトマトが散乱している。 事故を目撃したのか、オートバイに跨(またが)る一人の男が、その無残な現場を眺めている。 恐らく、警察に連絡し、その到着を待っているのだろう。 その幹線道…

ある過去の行方(‘13) アスガー・ファルハディ  <事態が惹起した「過去」の重みの記憶に翻弄される者たちが刻む風景>

1 テヘランに「帰郷」した男と、その男を迎える女の複雑な事情 パリの空港にやって来た男が、自分を待つ女を苦労の末、視認するが、ガラス戸越しで会話しても、その会話の内容は、本人たちにも充分な意思疎通が取れているように思えない。 当然、観る者には…

武士の献立(‘13)  朝原雄三 <「料理アーティスト」のDNAを繋いでいく女の「男前」、その颯爽感>

1 「夫を一人前の包丁侍にするべく、春は頑張ります」 全く厭味なく言えば、分りやすい映画の分りやす過ぎる着地点に流れ込むヒューマンな娯楽映画であるが、舟木家と、それをサポートする春の人物造形の成功と、一貫して安定した構成力により、極めて良質…

武士の家計簿('10)  森田芳光 <「質素」、「勤勉」、「倹約」、「正直」、「孝行」、「『分』の弁え」という美徳を有する、稀有なる「善き官僚」であった男の物語>

1 「ホームコメディ」と「シリアスドラマ」という二つの風景を、「技」の継承への使命感を有する堅固な信念によって接合した一篇 これは、時代の変容の圧力から相対的に解放された秩序の追い風の中にあって、それ以外にない「技」を、恐らく特段に問題なく…