2016-07-01から1ヶ月間の記事一覧

岸辺の旅(’15) 黒沢清<人間の〈生〉と〈死〉、グリーフワークを丹念に描いた秀作>

1 望みが叶って、稲荷神社の祈願書を燃やし、グリーフが完結 する 「楽しい曲だし、何か、曲のリズムと先生のテンポが合っていないっていうか…だから、この子、間違えるんじゃないかって…」 ピアノ講師の仕事で、見過ぎ世過ぎを繋いでいる瑞樹(みずき)の…

さよなら渓谷(’13) 大森立嗣<「レイプトラウマ症候群」 ――  その瞑闇の世界の風景の痛ましさ>

1 男の贖罪意識を試し続けてきた女の、それ以外にない収束点 東京都郊外(奥多摩近辺と思われる)。 夫婦の隣家で起きた幼児殺人事件を契機に、夫婦の関係に亀裂が入る。 夫の尾崎俊介(以下、俊介)が、件の殺人事件の容疑者として、地元警察に逮捕される…

夏をゆく人々(‘14) アリーチェ・ロルヴァケル<歴史の時間と「個人の秘密」が溶融し、人間の営為の「絶対的個別性」を生きた少女の永遠の価値>

1 渺茫たる自然の一角で生業を繋ぐ家族の懐に、異文化が闖入して来た 「エトルリア文化が香る土地。昔ながらに生きる皆さんと、素敵な宵をご一緒に。神秘的な古代墓地で、生と死の狭間で、美味しいハムやソーセージ、チーズを味わいましょう」 「ふしぎの国…

ショート・ターム(’13)  デスティン・ダニエル・クレットン<ロックド・インされた狭隘な出口を抉じ開け、〈状況〉を作り出した中枢点で吐き出し、暴れ狂い、解き放つ>

1 童話の様式をとった少女の「自己開示」 「原則として1年未満。例外として3年以上」 某都市の郊外にある短期児童保護施設、「ショート・ターム12」における児童の入所期間である。 そこに、新人職員・ネイトがやって来た。 大学を1年間休学し、人生経…