インビクタス/負けざる者たち('09) クリント・イーストウッド<「偉大なる黒人大統領」の視線を追い続けることで、間断なく提示していく「主題提起力」の一気の快走>

 1  「英雄」という名の未知のゾーンに搦め捕られる心理の鮮度の持つ、「初頭効果」の訴求力



 作品が持つ直截な政治的メッセージの濃度の高さを限りなく相対化するためなのか、ほんの少し加工するだけで、もっと面白くなる物語を比較的淡々と構成化することで、「英雄礼賛」に流れる俗流メッセージを稀釈化させたつもりなのかも知れないが、恐らく、本作を観終わった後の感懐の多くは、ネルソン・マンデラという実在人物に対する、崇拝にも近い「偉人伝」もどきの評価の高さで埋まってしまうだろう。

 それもまた良い。

 「英雄」を必要とする時代があり、「英雄」を必要とする国家に住む人々の悲哀を感傷的に理解できても、アパルトヘイトが分娩した、憎悪の連鎖から解放されない人々の心奥の集合的感情にまで届き得るには、差し当たり、パンの問題から解放された先進国の端っこに住む私たちの、その「強靭なる紐帯」への思いの情感濃度ではとうてい太刀打ちできないだろう。

 「英雄」を必要とする人々の心奥の集合的感情にまで容易に届くとは思えないが故に、「英雄」という名の未知のゾーンに搦(から)め捕られる心理の鮮度は、感動譚の物語の「初頭効果」の訴求力によって剝落しない情感を持つに違いないからである。

 然るに、直截な政治的メッセージの濃度の高い映画を批評する知的営為もどきの一切は、国境を越える自在性を有する「鑑賞者利得」をフル稼働させる趣味の範疇にあるので、ここでも簡単に相対思考の嗜好的快感を解き放ってみよう。

 
 
(人生論的映画評論/インビクタス/負けざる者たち('09) クリント・イーストウッド<「偉大なる黒人大統領」の視線を追い続けることで、間断なく提示していく「主題提起力」の一気の快走>)より抜粋http://zilge.blogspot.com/2012/01/09.html