三宝寺池の四季

 「武蔵野三大湧水地のひとつ。江戸時代には、いかなる日照りにも涸れないといわれ、昭和30年代頃までは、真冬でも池面が凍らない『不凍池』として知られていました。しかし、かつての豊富な湧水も、周辺の市街化など環境の変化により、現在では見ることはできません。このため、井戸から地下水を汲みあげ、池を満たしています。池と周りをおおう木々は、今も変わることなく、四季それぞれに美しい姿を見せてくれます。また、池のほとりにめぐらされた木道は、自然観察や散策にとても便利です。

 三宝寺池の北の台地を中心にソメイヨシノが約170本、ヤマザクラが約70本、コブシが約140本あり、それぞれ見事な花を咲かせます。また、水面に彩りを添えるカキツバタスイレンの花も楽しめます。花のない冬枯れの季節には、オナガガモコガモマガモオシドリなどの水鳥が飛来します。また、カルガモカイツブリは、一年を通じて観察できます。水鳥のほかには、カワセミシジュウカラアオジ、ウグイス、カワラヒワなどの野鳥も観察されています」
 
  これは、「公益財団法人 東京都公園協会」の公式ホームページにおける、都立公園である石神井公園の一角を占める三宝寺池の紹介の一文。

 私の印象としては、ここで紹介されているほど樹木の多い様子を感じなかったが、それでもここは、必要以上に広いパークから受けるイメージとは程遠く、うねうねとくねった池の周囲を巡らす花木が、四季折々の変化を見せる風景は、他の都立公園とは異なった固有の風情、情緒を感じさせる魅力に満ちていた。

 多分、その辺りが私を最も惹きつけた要因だと思う。

 西大泉の自宅から、中古の自転車を目一杯走らせて20分。

 都市農業の伝統を今に継いで、都内トップの生産量を誇るキャベツ畑が点在する、長閑な練馬の閑静なエリアを横目に見ながら、自転車で走り切った先に待つ自然公園の存在感は、「ここがあるからこの地を離れたくない」と思わせる絶大な求心力があった。

 「風景の変容」 ―― この言葉こそ、この公園に私を運ばせた最大の理由である。

 爛漫の陽春から季節を繋ぎ、猛暑の夏を経て、キンモクセイのオレンジが、街全体を甘くて強い香りで包み込む初秋をあっという間に駆け抜けて、紅黄葉の彩色眩しい晩秋の先に待つ、偏西風の蛇行による厳冬や、エルニーニョ現象による暖冬異変の風景の氾濫など、変化に富んだ日本の四季の多様な季節の循環の中で見せる、四季折々の自然の表現力は、去年もまたそうであったような彩りとは、どこかほんの少し違う何かがあって、その何かと出会うために、私はこの公園に通い続けていたような気がする。

 風景が変容するときの、その蠱惑(こわく)的な美しさ。

 四方を海に囲まれた中緯度の島国の風土が綾なす、寒暖の変動の大きさが作り出す風景の、芸術的な表現力の醍醐味と出会いたかったのだ。

 それが、三宝寺池の四季にはある。

 そんな勝手な思いを抱かせるに足る、三宝寺池の四季の最大の見せ場。

 それは、深々と降り頻る雪景の中で見せる風景である。(トップ画像)

 まさに、一期一会という言葉に相応しい微妙な変化の多様な相貌が、そこにはあった。

 我を忘れて、殆どシャッターを切り捲っていた。

 メガシティの東京には、これほどまでに人を惹きつけて止まない自然公園が存在するということ。

 東京は美しい。

 私にそう思わせる魅力の中枢に三宝寺池公園がある。
 
 
[ 思い出の風景 三宝寺池の四季  ]より抜粋http://zilgf.blogspot.com/2011/06/blog-post.html