1 ルールを決め、徹底的に飲み明かし、酔い潰れていく男たち
高校3年の歴史を担当する教師・マーティンが、教室に集まった保護者から大学進学への不安を訴えられる。
生徒たちからも、進学への関心の低さと授業内容の意味不明さを指摘された。
マーティンは他の教師に代わることも含めて、解決策を検討してみると応えるしかなかった。
家では、妻・アニカからも、二人の息子たちからも相手にされず、教師仲間との交流のみが、マーティンの居場所になっていた。
心理学教師のニコライの40歳の誕生日に集まった4人の教師。
体育教師のトミー、音楽教師のピーターとマーティンである。
会食の場で、ニコライが哲学の興味深い話をする。
「ノルウェー人の哲学者がいた。名はフィン・スコルドゥール(実在人物)。彼は飲むべきだと言っている。人間の血中アルコール濃度は、0.05%が理想らしい…リラックスした状態で、気持ちを大きく持てる。体中に力と勇気がみなぎってくるらしい」
「自信とやる気で、人生が上向きになるかも」とピーター。
そこで、マーティンに対する保護者らのクレームの一件が話題となり、ニコライがマーティンにアドバイスする。
「君に欠けてるのは、自信と楽しむ気持ちかも」
一人でミネラルウォーターを飲んでいたマーティンだったが、皆に勧められてウォッカとワインを飲み、涙が潤(うる)む。
「妻は夜勤ばかりで、ろくに顔を合わせてない」
「他にいい人、探せば?」とニコライ。
「アニカは子供たちにとって、いい母親だし、父の看病もしてくれた。老後も手を取り合って、生きていこうと約束したが、どうなるやら」
皆はマーティンを慰め、ダンスを習っていたことを話し、店を出てからも、踊ったり、燥(はしゃ)いだりして、4人で弾けるのだった。
翌朝、マーティンは0.05%を試すために、学校で酒を一口飲んで授業に向かう。
運転ができないからと、ニコライがマーティンを送っていく。
トミーに電話をかけ、ニコライが伝えるのだ。
「マーティンが人生を変える一歩を踏み出したんだ」
トミーの家に集まった4人は、本格的な実験として4人が参加し、心理学の論文を書くことが決まった。
「人間の血中アルコール濃度は0.05が理想という仮説の検証。飲酒が心と言動に影響を及ぼす証拠を集めること、そして、仕事の効率と意欲が向上するか調べる」
早速、ニコライがパソコンに実験の主旨を書き込み、飲むのは勤務中だけ、8時以降は禁酒、週末は飲酒禁止とするなどのルールを定めた。
効果覿面(てきめん)だった。
マーティンの歴史の授業は、今までになく興味深いものになり、生徒たちが強く関心を示し、歴史からの教訓を語る。
「いつか君たちも分かるときが来る。世の中は、期待どおりにならない」
ピーターの音楽の授業も、いつもと違う工夫から生徒たちの心を掴み、活気が生まれてきた。
トミーのサッカーの指導も熱がこもる。
飲酒の実験以後、4人ともテンションが上がり、授業に手応えを感じるようになった。
そんなポジティブな態度が周囲にも波及し、マーティンはアニカとの会話も弾むようになる。
かくてマーティンは、もっと効果をあげるために、アルコール摂取量を少し上げることを提案する。
そこで、「アルコール摂取量は個人が、適量と判断した量とする」というルールに変更するに至る。
その結果、マーティンは0.12%にまでアルコール濃度を高めてしまった。
足取りが覚束(おぼつか)なくなり、教師たちの見ている前で、壁に頭を打ち付けて、鼻血を出してしまうのだ。
それでもマーティンの授業が盛り上がり、成功している姿を見て、音楽教師のピーターが絶賛し、自らもアルコール量を上げていく。
トミーのサッカーチームの試合で、チームメイトから相手にされていなかった“メガネ坊”がシュートを決め、それを見ていた3人がトミーの指導力を称え、喜びを分かち合うのである。
マーティンは約束通り、家族とカヌー旅行に出かけた。
その夜、マーティンは久しぶりにアニカと結ばれる。
「何かあった?どうしたの?
「泣いてるのか?どうして?」
「壁を感じてたから」
「俺もだ」
「寂しかった…ずっと。長かった」
テントの中での夫婦の会話である。
ニコライの家に4人が集まり、「アルコールが及ぼすあらゆる影響を調べたい」というニコライは、「飲酒の影響を飲めば飲むほどもっと酒が欲しくなる」という“点火状態”に皆でなりたい」と提案する。
「これぞ、究極の精神浄化だ」
これに対し、マーティンは参加を断る。
「家族との時間を大切にしたい」
それに対して、トミーは「やる」と言い切った。
そして、ニコライの家。
妻と3人の子供たちが出かけた後、飲酒パーティーが始まり、ニコライは「血中濃度の最高値を目指したアルコール摂取の実験」と題して、論文に書き込んでいく。
マーティンは帰ろうとするが、目に付いたグラスの酒を口にすると、結局、その場に残り、音楽をかけ、皆で踊りながら飲酒のループに嵌っていくのだ。
徹底的に飲み明かした4人は、町に繰り出し、大騒ぎを繰り返し、酔い潰れ、正体を失くしてしまうのである。
人生論的映画評論・続: 海辺の一角で渾身の一撃を放つ男の、人生のやり直し 映画「アナザーラウンド」('20) トマス・ヴィンターベアより