1 天を衝く少女の叫びが、闇のスポットを劈いていた
スーパーで、20円足りずに万引きした父・原田智(さとし)を迎えに走って店に来た中学生の娘・楓(かえで)。
「うちの父、ちょっと抜けてるとこあるんです」
楓が店長に20円払い、何とか父を引き取ることができた。
父は外で万引きしたお握りとみそ汁を食べ、自宅に帰る際の会話。
「お父ちゃんな、今日、あいつ見たんや」
「誰?」
「名無しや…ニュースでやっとったやん。指名手配犯・山内照己。朝な、電車ん中で見かけたん」
「別人やで」
「マスク外してな。爪噛んどった。一瞬、顔が見えたんや。あれは、絶対ほんまもんや。東京からな、逃げて来とんねん。捕まえて警察付き出したら、300万やで」
「アホなこと考えんと、普通に働きぃよ」
朝起きると、父の姿がなかった。
学校でそばパンを食べていると、クラスメートの花山豊から告白されるが、タイミングが悪いと言うや、教室から出て行く楓。
その足で楓は、日雇い労働の斡旋所のあいりん労働福祉センターへ行き、スマホの画像を見せながら、父に仕事が入っているかを訊ねるが、教えてもらえない。
楓は工事現場の住所を写真で撮り、一緒について来た豊と共に、現場へ向かう。
そこで原田智を呼び出してもらうと、全く別人の若い男が立っていた。
「すみません。人違いでした」
その男は爪を噛んでいて、無反応だった。
楓は担任の蔵島みどりに父が帰って来ないことを相談し、警察に届けに行くが協力してもらえず、自分たちでチラシを作ることになった。
街頭で蔵島と豊と3人で父の顔写真のチラシを配っていると、突然、楓はしゃがみ込み、携帯を二人に見せると、「ゲームオーバー」だと言い、チラシを投げ捨て踏み続け、二人に八つ当たりする。
携帯に届いたメッセージには「探さないで下さい。父は元気に暮らしています」と書かれていたのだ。
チラシを剥(は)がしていると、指名手配中の山内照己(てるみ)に写真と特徴が書かれたチラシが目に付いた。
楓は、爪を噛んでいたことも想起して、それが父の名を名乗っていた工事現場の男だと気づく。
楓は警察に懸賞金目当てに父が近づいたことを伝え、捜査を求めるが相手にされない。
かつて父が経営していたが家賃が払えず手放した卓球クラブに入り込み、パソコンでネット情報を調べると、「多摩8人殺害事件(名無し事件)」がヒットする。
犯人は、複数のアカウントを持ち、「SNSで被害者を誘い出し、廃墟に連れ込む」手口で、残忍な殺害を繰り返していた。
楓は蔵島の家で食事をし、泊まることになるが、途中で起きて家に帰る。
翌日、再び工事現場に行って、原田と名乗る男が降りたという駅に行くが、見つからない。
楓は卓球クラブに向かい、父を思って嗚咽するのである。
そこで、鼾(いびき)が聞こえ、ドアを開けると、山内が寝ていた。
「お父ちゃん、どこや…原田智」
「あー」
「どこにおるんや!」
「それは、有料コンテンツやね」
そう言い放ち、山内は一目散に逃げて行く。
楓は走って追い駆け、途中で自転車を借りて追い詰めるが、逆に首を絞められたところに、近所のおばさんから声をかけられると、山内はフェンス越しに逃げる。
楓は山内の足を掴み、その拍子にズボンが脱げてしまうが、山内はそのまま走り去っていくのだ。
ズボンのポケットの中から、父の携帯が見つかり、果林島行きの切符も出てきた。
豊に見せると、警察に行こうと言われるが、楓は絶対に嫌だ言うのだ。
もう、警察を信用していないのである。
「ほんま、止めようや。殺されてまうで」
楓は彼女になることを条件に、豊を一緒に果林島行きに誘う。
島に着いても手掛かりはなったが、突然パトカーのサイレンの音がして、走って向かうと、民家で人が死んで運ばれるところだった。
中にいる死体を父だと叫んで入ろうとする楓。
天を衝く少女の叫びが、闇のスポットを劈(つんざ)いていた。