僕が跳びはねる理由('21)  自分たちのリズムを壊すことなく、成長を望む思いを共有していく

1  「感情に訴える何かが起こると、雷に打たれたように体が動かなくなる。でも跳びはねれば、縛られた縄を振りほどくことができる」

 

 

 

「およそ10年前、10代だった東田直樹は、その著作で知らざれる世界を明らかにした。“自閉症の僕が跳びはねる理由”は、会話のできない自閉症の少年の成長を描いている」(キャプション)

 

「小さい頃は、自分に障害があると知らなかった。なぜ気づいたか?“普通と違う”みんなが言ったからだ。“これは困る”と。確かに“普通”になるのは、僕には難しかった。今でも人との会話はできない。みんなから見れば、自閉症の世界は謎だらけに違いない。心の中を僕なりに説明することで、自閉症の子供を見守る皆さんの助けになればと思う」(モノローグ)

 

「言いたいことが言えない生活を、想像できますか?」(モノローグ)

 

ここから、世界中の自閉症の子供たちが紹介される。

 

「みんながしないことをするたびに、不思議に思われる。見かけで判断しないでほしい。少しだけ、僕の言葉に耳を傾けて。僕らの世界を旅してほしい」(モノローグ)

 

インド ノイダ地区

“アムリット”

 

「娘は、皆と違う物事に反応する。あれは、うれしい驚きだった。アムリットは長年心の中に怒りを抱えながら、それを表現できずにいた。学校で、いじめにも遭っていたと思う。友達が欲しくても、他の子は娘を持て余す。よく何時間も叫んでは、泣いていた。私も助けられずに泣いたわ。当時はよく、クレヨンを1箇所に塗りたくっていた。紙が破れて、机に跡がつくほど強く。そうやって懸命にメッセージを伝えていたのでしょう。私は気づいた。これは単なるアートではなく、日常を伝える手段なんだと。どんな物を食べたかも描いてたわ。学校の生徒たちや、見た風景も…これが旅の始まりだった」(アムリットの母)

 

「僕は世界をどう見ているのか。見えるものは、みんなと同じでも、それをどう受け取るかが違う。みんなは物を見る時、まず全体を見てから、部分を見ている思う。僕の場合は、まず部分が飛び込んでくる。その後、視界が広がって全体が分かるんだ。僕の目は線や面などにとらわれる。状況を理解するには、記憶の中から最も似た場面を探す必要がある」(モノローグ)

 

「世界は混沌とした場所だ。脳内で何とか整理しないといけない。自閉症者は、やっとの思いで対処している。そう理解した。東田直樹が、この本を書いたのは13歳の時。僕の息子と同じ自閉症だ。直樹は、いわば心の地図を描いて見せた。たとえば彼が、“雨が降っている”と理解するまでの描写がある。自閉症でない人間には、想像も及ばない独自の音を聴くと、彼は頭の中のカードをめくり、記憶を頼りに“雨”という語に結びつける。かなりの手間だ。直樹が描くのは未知の世界。彼がさらされ続けている混沌とした世界だ。感情が抑えられず、突如パニックが襲う…」(デイヴィッド・ミッチェル “自閉症の僕が跳びはねる理由”翻訳者)

 

「娘には、“こだわり”が多かった。私は世間体を気にして、やめさせようとしたわ。でも直樹の本を読んで知った。娘の苦労をね…正しい母親であろうとするあまり、我が子を見てなかった。あの子らしさを抑圧してた」(アムリットの母)

 

笑顔で抱き合う母娘。

 

「物は、すべて美しさを持っている。鮮やかな色や印象的な形を見ると、それだけで心が奪われる。何も考えられなくなるんだ…」(モノローグ)

 

「ある種の物音や光景が、娘に苦痛を与えたり、喜びをもたらしたりする。アムリットは家に帰ると、まず紙を手に取る。自分の思いを世界に伝えるために」(アムリットの母)

 

アムリットの描いた大量の絵が運ばれ、会場に展示される。

 

「話せないことは、気持ちを伝えられないことだ。人として生きるには、自分の意思を伝えることが何より大切だ」(モノローグ)

 

イギリス ブロードステアーズ

“ジョス”

 

「人と話そうとすると、僕の言葉は消えてしまう。口から出る言葉は本心とは違う…いわば反射的だ。その時、見た物や思い出したことに反射している。言葉の洪水に溺れながら…でも、いつも使っている言葉なら話せる」(モノローグ)

 

「ジョスは、すべてを見て、聞いている。幼い頃は、感覚の世界を楽しんでいた。特に光と水に関わるものね。できるかぎり触れさせた」(ジョスの母)

「10秒だけでも、息子になって世界を感じたい」(ジョスの父)

 

3.4歳の頃住んでいた家でのことを具体的に話すジョス。

 

「彼にとっては、30分前の出来事を変わらない。2歳の誕生日の直前のことも話す。まるで制御不能のスライドショーだ」(ジョスの父)

 

「時間は、ずっと続き区切りがない。だから戸惑ってしまう。今言われたことも、ずっと前に聞いたことも、僕の頭の中では、あまり変わらない。みんなの記憶は、たぶん線のように続いてる。でも僕の記憶は、点の集まり。その全部がバラバラでつながらない…困るのは、古い記憶が、時々生々しく、頭の中で再現されることだ。その時の気持ちもよみがえってくる。突然の嵐のように…次の一瞬、自分が何をしているか、それがいつも不安なんだ」(モノローグ)

 

「思春期になり、彼は、感覚の世界を楽しめなくなった。不安が大きくなったの」(ジョスの母)

 

「何かをしたくても、どうしても、できない時もある。体が別人のもののように感じる。壊れたロボットを操縦しているようだ」(モノローグ)

 

突然、大声で叫び、暴れて父を苦しめるジョス。

 

「絶望感からパニックになることもある。何か失敗すると、その事実が津波のように押し寄せ、逃げようと必死でもがく。気づけば、残っているのは僕が暴れた跡だけ。自己嫌悪に陥る」(モノローグ)

 

攻撃的な行動が増え、大変な時期が数か月続き、ジョスは学校を退学になり、自閉症の子供が入れる全寮制学校に転校する。

 

「今も頻繁に帰ってくるけど、本当に、つらい決断だった」(ジョスの母)

 

ジョスが楽しそうにトランポリンを跳びはねる。

 

「僕が跳びはねる理由?僕の体は、悲しいことやうれしいことに反応する。感情に訴える何かが起こると、雷に打たれたように体が動かなくなる。でも跳びはねれば、縛られた縄を振りほどくことができる。気持ちは空に向かっていく。そのまま鳥になって、遠くへ飛んで行けたら…」(モノローグ)

 

「直樹の著作は、自閉症者への偏見を覆した。“感情がない”だとか、“創造的な知性を持たない”などだ。もしそうなら、本など書けるはずがない。文章を書く自閉症者は板挟みになちがちだ。多くは書いたことを疑われる。あるいは、信じてもらえても、ごく軽度の自閉症だと思われてしまうんだ」(デイヴィッド)

 

  

人生論的映画評論・続: 僕が跳びはねる理由('21)  自分たちのリズムを壊すことなく、成長を望む思いを共有していく  ジェリー・ロスウェル

 より