2011-03-20から1日間の記事一覧

羅生門('50)  黒澤 明 <杣売の愁嘆場とその乗り越え、或いは「弱さの中のエゴイズム」>

1 杣売の呟き 物語を追っていこう。 時は平安時代。場所は京の都の羅生門(注1)。 度々の戦乱で、その門の外観は大きく崩れている。その崩れかけた一角を狙い撃ちするかのように、弾丸の雨が激しく叩きつけていて、その門下には、二人の男が雨宿りをしてい…

ミッドナイト・エクスプレス('78)  アラン・パーカー <「絶対敵対者」を作らざるを得ない、社会派映画の過剰さ>

「1970年10月6日、トルコのイスタンブールで起きた」 この冒頭の字幕の背景に、イスタンブールのエキゾチックな風景が映し出された後、一人の青年が、その体に禁制の麻薬をアルミ箔に包んで、それを幾つもテープで体に巻きつけている。青年はイスタン…

生きてゐる小平次 怪異談('82)  中川信夫 <「追い詰められた鼠」が選択した自己防衛反応の究極の様態 ―― 或いは、恐怖感の本質>

ここに、3人の登場人物がいる。 一人は役者の小平次、もう一人は囃子方の太九郎である。 そして3人目は、かつて大店の女房に収まりながら、逃げて来たおちか。 そのおちかは、今は太九郎の女房に収まっているが、小平次からの熱い恋慕の対象になっている。…

4分間のピアニスト('06) クリス・クラウス  <「表現爆発」に至る物語加工の大いなる違和感>

ピアノ教師として女子刑務所に赴任して来た80歳のクリューガーは、新入りのジェニーが机を鍵盤代わりにして指を動かす姿を見て、一瞬にして抜きん出た才能を認知する。 「未来のモーツァルト」を目指してピアノの練習に励んでいたジェニーは、何度か国際コ…