4分間のピアニスト('06) クリス・クラウス  <「表現爆発」に至る物語加工の大いなる違和感>

 ピアノ教師として女子刑務所に赴任して来た80歳のクリューガーは、新入りのジェニーが机を鍵盤代わりにして指を動かす姿を見て、一瞬にして抜きん出た才能を認知する。

 「未来のモーツァルト」を目指してピアノの練習に励んでいたジェニーは、何度か国際コンクールで入賞した実績を持っていたが、12歳のとき、養父によってレイプされるという心の傷を負ってしまい、以後、荒んだ青春を送っていた。

 そんなジェニーを見て、彼女の才能を花開かせることこそが自分の使命だと感じたクリューガーは、所長を説得してピアノのレッスンを始めようとするが、ポップミュージックを弾くジェニーの音楽を「低俗」と決めつけて簡単に折り合えなかった。

 冤罪の殺人事件の女囚として刑務所に入所しても、ジェニーが起こした看守への暴行事件によって、遂に手錠監禁される始末。

 それでも、ジェニーの「才能を生かす使命」「を感じたクリューガーは、ジェニーとの紆余曲折の関係を経ながらも一定の信頼関係を構築する。

 クリューガーもまた、ナチス時代に同性愛者を裏切ったという深き闇の世界を引き摺っていて、そのトラウマも関与して、ジェニーの「才能を生かす使命」を継続させていたのである。

 2人の関係を快く思わない看守による卑劣な陰謀が、決勝コンクールを数日後に控えたジェニーを暴力事件に巻き込み、再び監禁される事態を出来した。

 覚悟を決めたクリューガーは、ジェニーを刑務所から脱出させるという行動に打って出た。ジェニーをドイツ・オペラ座での決勝コンクールに参加させるためである。

 彼女を逮捕するために集結した多くの警察官の包囲網の中で、「4分間のピアニスト」として、満席の聴衆の度肝を抜くジェニーのピアノ演奏が開かれたのだ。


(人生論的映画評論/4分間のピアニスト('06) クリス・クラウス   <「表現爆発」に至る物語加工の大いなる違和感>」)より抜粋http://zilge.blogspot.com/2010/01/06.html