2014-09-01から1ヶ月間の記事一覧

復讐するは我にあり(‘79) 今村昌平 <「犯罪映画」の最高到達点>

1 「本当に殺したい奴、殺してねぇんかね?」 一人の中年男と、一人の老婆が歩いている。 中年男と言っても、37歳の壮年である。 その名は榎津巌(えのきづいわお)。 専売公社の二人の集金員を殺害した殺人犯として、全国指名手配中の男である。 その男…

プライドと偏見(‘05) ジョー・ライト <男と女の深い心理の機微を精緻に描き切った秀作>

1 「恋愛の王道」をいく、切なくも、紆余曲折の経緯をトレースする物語 そこかしこに牧歌的風景が広がる、18世紀末のイングランドの片田舎。 その日、初老期にあるベネット夫妻と、適齢期を迎えた5人の娘たちばかりで構成されるベネット家での話題の中心…

ふがいない僕は空を見た(‘12) タナダユキ <〈生誕〉への無限抱擁=「大いなる母性」のうちに収斂させていく手品の「生命線」>

1 〈生誕〉への無限抱擁=「大いなる母性」のうちに収斂させていく手品の「生命線」 人間が普通に抱えている不幸や心の闇を大袈裟にデフォルメし、その部分だけを持つ者たちの、その部分だけをマキシマムに特化させ、些か映画的統合性が脆弱な物語のうちに…

マイライフ・アズ・ア・ドッグ(‘85)  ラッセ・ハルストレム <対象喪失の悲嘆と向き合う児童の内面的昇華を精緻に描いた一級の名画>

1 容易に癒えない対象喪失の悲嘆の風景を晒す危うさ 私が観た、この監督の作品の中で、紛れもなく最高傑作。 主題提起力・構成力、共に問題なく、何よりも優れて映画的だった。 あまりに痛々しくも、辛いテーマを感傷に流すことなく、少年の自我の形成過程…

北北西に進路を取れ(‘59) アルフレッド・ヒッチコック <「最高のマクガフィン」というエンタメサスペンスの決定版>

1 絶望的な旅に打って出た男の危機一髪 広告代理店を経営するロジャー・ソーンヒル(以下、ロジャー)が、陰謀組織・バンダム一味の二人の男によって、ニューヨークのホテルから広壮な邸宅に連れ出された。 カプランという男と勘違いされたためである。 連…