冬冬の夏休み(’84) ホウ・シャオシェン <児童期後期から思春期への通過儀礼を鮮やかに描いた一級の名画>

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1  「毎日、色んなことがあって、思い出せません」 ―― 少年の夏が弾けていく
 
 
 
 
 
「残されたのは数々の思い出だけです。離れがたい思いのまま、私たちを6年間育んでくれた学校を後にします。深い悲しみに、涙がこぼれます。けれど、私たちは学業を終えたのです」
 
仰げば尊し」の歌と重なり合って、台北の小学校での卒業生代表の答辞の一部である。
 
妹の婷婷(ティンティン)と共に、入院中の母を見舞った後、卒業生の冬冬(トントン)は、妻の看病に忙しい父に代わり、冬冬の叔父である昌民(チャンミン)に随伴し、田舎の村・中西部にある銅鑼郷(どうらきょう)で診療所を経営する母方の祖父のもとに、夏休みを過ごしに行く。
 
途中まで、昌民の恋人である碧雲(ピーユン)が随行する列車の旅である。
 
途中の駅で降車する碧雲を見送った昌民が、車内に忘れた彼女の服を取りに戻り、走って届けに行く間に、列車は発車してしまう。
 
残された二人の兄妹が目的駅に着くが、叔父を待つために、冬冬は広場でラジコン遊びに興じていた。
 

珍しい玩具に好奇心をそそられた地元の子供たち。

その一人の阿正国の持つ亀と、ラジコンを交換してしまう冬冬。

 
ようやく、兄妹に追いついた昌民と共に、祖父の診療所に辿り着く冬冬と婷婷。
 
早速、冬冬は阿正国らと遊びに熱中する。
 
亀と玩具を交換するために、阿正国らの仲間が迎えに来たのである。
 
交換できる玩具が一つしかないので、一番早い亀と交換するレースに耽る子供たち。
 
そして、次は川遊び。
 
「どけ。女が見る者じゃない。女が見ると、目がつぶれるぞ」
 
子供たちの中で、婷婷だけは仲間に入れず、追い出された鬱憤を晴らすために、婷婷は男の子たちの服を川に投げ捨ててしまうのだ。
 
裸のまま、家に戻る男の子たち。
 
しかし、連れて来た飼牛がいなくなり、それを探しに行った阿正国だけが戻らない。
 
飼牛だけ戻って来たが、心配する家族や冬冬たちが阿小国を探しに行く。
 
阿生国は疲れ果て、橋の上で、裸のまま眠ってしまったのである。
 
その後、教育熱心な祖父から、教科書の言葉を暗唱する冬冬。
 
蓄音機のレコードが奏でるノスタルジックな音楽を聴きながら、古いアルバムを見る祖父と冬冬。
 
この音楽をBGMにして、再び、外で遊ぶ子供たちの様子が描かれていく。
 
子供たちの嘲笑の視線が注がれる中、村人から毛嫌いされている知的障害者の寒子(ハンズ)が祠をお参りし、その前でタバコを吸っていた。
 
好奇心旺盛な少年たちは、スズメ捕りの男に付いて行き、スズメを盗もうとするが、男が入った家の中に、その寒子がいるのを見るや、帰宅して来た寒子の父親に追い払われてしまう。
 
寒子はどうやら、村の男たちの慰み者にされているようだった。
 
その父親に、折檻されるスズメ捕りの男。
 
「あんな罪もない娘を、どうしたらいいの?母親もいないし、父親も哀れだわ」
 
祖父の家の中で交わされた、祖母と叔母との会話である。
 
寒子が、既に身ごもっていることを案じているのである。
 
一方、冬冬の母の病名が、「胆管閉塞」である事実が判然とする。
 
母の実父である祖父の言葉によると、母の病気は「胆嚢破裂の恐れがあり、胆汁性腹膜炎を併発しかねない」とのこと。
 
だから、手術が不可避であるが、今や、担当医師に任せるしかないということだった。
 
それを耳にし、全く言葉を挟めない冬冬の心の痛みが映像提示されていた。
 
その冬冬たちが、高架下の路上で昼寝をしているトラック運転手たちから金品を奪っている強盗現場を目の当たりにする。
 
昌民と碧雲(ピーユン)のカップルと共にビリヤードを楽しんでいる冬冬が、二人の強盗を目視したのは、まさにそのビリヤード場だった。
 
そして、祖父の診療所には、強盗現場の被害者が運び込まれて来た。
 
「僕、犯人を知ってるよ」と冬冬。
「子供は口出ししないの」と祖母。
全く相手にされなかった。
 
碧雲(ピーユン)を孕ませたことで、母親が診療所に乗り込んで来て、昌民を責めるエピソードが挿入されたのは、この直後だった。
 
「出てけ!帰ってきたら、殺してやる!」
 
そう叫んで、祖父が息子を追放する。
 
そんな大人社会の現実を、冬冬は見せつけられるのだ。
 
相変わらず仲間に入れてもらえない婷婷が、電車に轢かれそうになった。
 
そんな婷婷を助けたのは寒子だった。
 
危機一髪だった。
 
寒子に背負われた婷婷を見て、冬冬は「降りろ!」と言うが、それを嫌がらない婷婷にとって、寒子は寂しさを埋める母親代わりの存在だった。
 
「産ませてやりたい。哀れだ。子供を持てば、寒子も治るだろう」
 
祖父に語る寒子の父親の言葉である。
 
スズメ捕りの男に孕まされた寒子を、守ってやりたいという思いが滲み出ていた。
 
そんな折、昌民と碧雲が結婚式を挙げるが、当然ながら、祖父は出席しない。
 
その結婚式に、冬冬だけが出席する。
 
「何か、可哀そうだ」と、母への手紙に書く冬冬。
「毎日、色んなことがあって、思い出せません」
これも、母への手紙の一節。
 
「冬冬の夏休み」には、多くの情報が詰まっているのだ。
 
また、寒子と仲良くなった婷婷が死んだ小鳥を川に流す際に、その小鳥を優しく包み、寒子が涙を流すシーンが印象的に挿入される。
 
その婷婷が拾った小鳥を巣に戻そうとした寒子が木から落下し、祖父の診療所に運ばれて来た。
 
その手当てのため、台北にいる重体の娘(冬冬の母)に会いに行けなくなったことで、母を心配する冬冬から詰(なじ)られる婷婷。
 
寒子の寝床の傍で、婷婷は座っているだけだった。
 
この一件で、流産してしまう寒子。
 
一夜明け、母の容態が回復した事実を知り、安堵する冬冬。
 
相変わらず、頼りない息子だが、昌民の勘当を許す祖父。
 
かくて、台北から迎えに来た父と共に、台北に戻っていく冬冬と婷婷。
 
冬冬の夏休みが終わったのだ。


人生論的映画評論・続/ 冬冬の夏休み(’84) ホウ・シャオシェン <児童期後期から思春期への通過儀礼を鮮やかに描いた一級の名画> )より抜粋http://zilgz.blogspot.jp/2016/11/84.html