1 「核実験のモルモット」にされたウイグル民族の凄惨さ
「一度入ったら出られない死の砂漠」
日本の国土に匹敵する面積を持つ、タクラマカン砂漠の巨大さを表現するウイグル語(中央ユーラシアを中心に広がる「テュルク系」の言語)である。
かつて、サハラ砂漠と並ぶこの中国最大の砂漠は、200mもの砂丘が形成され、日常的に砂塵(さじん)が空を覆い、衛星画像が証明するほどに、人間の居住を拒絶するかのような、一際(ひときわ)目立つ乾燥地帯である。
タクラマカン砂漠の周辺には、数々の遺跡や砂漠の中の緑地・オアシスが点在することで、地下水路によって水を引くオアシス農業(灌漑農業の一形態)が生命線となっている。
砂漠の東端には、敦煌(とんこう)や楼蘭(ろうらん)に代表される「オアシス都市」が栄え、北の「天山山脈」(てんざんさんみゃく)と、南の「崑崙山脈」(こんろんさんみゃく)は、シルクロードの東西交易ルートとなり、周辺の「オアシス都市」を結び、中国と西洋を結んだ交易路・シルクロードが発達し、文字通り、中国の絹を運ぶ重要ルートであった。
ユネスコの世界遺産に登録されたシルクロードは、モンゴル高原やウクライナ、カザフスタンのステップ地帯(草原地帯)を通る北方の「草原の道」と、東シナ海・南シナ海・インド洋を経緯し、アラビア半島へと至る南方の「海の道」を含む歴史的な交易路だった。
2013年に提唱された巨大プロジェクト・「一帯一路」構想は、「シルクロード経済帯」(一帯)と「海上シルクロード」(一路)の二つの地域で、インフラ整備、及び、経済・貿易関係を促進するというプランは壮大だが、ここで想起するのは、余剰農産物を持て余していたアメリカが、西ヨーロッパを対象に輸出したことに端を発し、NATO(北大西洋条約機構)のベースにまで発展した「マーシャル・プラン」である。
トルーマン政権下の国務長官・ジョージ・ マーシャルが、欧州経済の復興を目的とする援助だったが、文脈的に言えば、「マーシャル・プラン」は「コミンフォルム」(共産党・労働者党情報局)と対峙し、共産主義勢力の浸透防止という、冷戦下での戦略的な外交政策だった。
「一帯一路」構想が「現代版・シルクロード」である所以である。
そして、タクラマカン砂漠北東部には、「さまよえる湖」として知られる塩湖がある。
2016年10月、ノーベル平和賞候補にも選ばれた、「ウイグルの母」と呼ばれるラビア・カーディル(以下、敬称略)を議長(2017年11月に総裁が交代し、以後、特別代表に)とし、ドイツのミュンヘンに拠点を置く、「世界ウイグル会議」の傘下団体・NPO法人・「日本ウイグル協会」(日本での活動団体で、イリハム・マハムティ協会代表)による、「中国・核の脅威シンポジウム」が開催された。
元より、テュルク系イスラム教徒によって樹立された「東トルキスタン共和国」(第1次・第2次)が、中国共産党の「新疆侵攻」(しんきょうしんこう)によって中華人民共和国に統合され、1955年以降、「新疆ウイグル自治区」(ウルムチが自治区首府)として共産党の実効支配が続いている。
その結果、放射能汚染による白血病と甲状腺癌、先天的な障害を持つ子供の増加が確認されたばかりか、中国共産党による「エスニック・クレンジング」(民族浄化)政策により、深刻な人権侵害を被(こうむ)るウイグル民族が急増し、強制的な「臓器狩り」のターゲットになるという由々しき事態が指摘されている。
爆心地付近で放射線を受けた「直接被爆」ではなく、人体が放射線に曝(さら)される被曝(ひばく)=「間接被曝」、即ち、「黒い雨」に象徴される、「フォールアウト」(放射性降下物=塵のような「死の灰」)などの「間接被曝」による影響が見て取れるのだ。
これは、1954年3月、米軍による水爆実験「キャッスル作戦・ブラボー実験」で、「フォールアウト」が原因で「再生不良性貧血」(白血球・赤血球・血小板の全てが減少)を起こし、肝炎ウイルス感染により死去した、無線長・久保山愛吉の「間接被曝」と同様の文脈において語られるだろう。
ソ連が開発した人類史上最大の水素爆弾・「ツァーリ・ボンバ」の破壊力は、Wikipediaによると、TNT換算(爆薬の爆発などで放出されるエネルギーを換算する方法)で約100メガトン(第二次世界大戦中に全世界で使われた総爆薬量の50倍)の威力を誇り、広島型原子爆弾「リトルボーイ」の約3300倍もの威力を有しているとも言われている。
―― 因みに、厚生労働省の「原爆症認定」によると、現在、我が国の原爆症認定の審査の方針は、より被爆者救済の立場に立ち、被爆の実態に一層即したものとするため、評判が悪かった化学的な「原因確率」の採用を放棄し、被爆地点が爆心地より約3.5km以内である者か、或いは、原爆投下より約2週間以内の期間に、爆心地から約2km以内の地点に立ち入ったなどの被曝者が対象になっている(「二次被爆」=「入市被爆」)。
厚労省のホームページによると、60年以上前に浴びた放射線に起因する発症なのか否かの判断が難しく、審査にあたっては、高度の医学・放射線学上の知識が必要になり、医学・放射線学の第一線の学者から成る合議制の審査会の意見を聴いて、「原因確率」による認定審査が行われていた。
物理学者・高田純による調査報告は、極めて衝撃的な内容を含んでいる。
この遺跡の近辺で実施された核爆発によって、ガンマ線・ベータ線・アルファ線が放射し、「核の砂」が大量に発生した影響の凄まじさは、核防護技術の散漫さのため、ウイグル人への医療ケアも施されることなく、4000度以上に達する爆心地周辺の地表面の温度を記録した、広島原爆を大きく超える被害が発生するに至ったと言われる。
その結果、多くの現地住民が犠牲になったのは言うまでもない。
だから、中国には、公式的に「被曝者」という言葉が存在しないのだ。