わたしは最悪。('21)   終わりが見えない「自分探し」の旅に終止符が打たれいく

1  「あなたは説明したがるけど、私は、ただ素直に感じたいの」

 

 

 

序章

 

「ユリヤは失望した。集中できない。成績はいいのに、次々と入る情報で気が散る。世界では解決できない問題が山積。不安な時は、猛勉強や“デジタル漬け”で紛らわそうとしていた。これは自分じゃない。医大は成績優秀者にふさわしい進路だ。それだけの理由でユリヤは医学を志した。その時、分かった。自分が好きなのは魂だ。肉体ではない…」(ナレーション)

 

「私が好きなのは、人間の内面や感情なの」

 

ユリヤは心理学の授業を受講する。

 

「同級生は皆、未来のカウンセラーだ…ところが、また詰め込み教育。私の人生は、いつ始まるの?…彼女は視覚の人間だった」(ナレーション)

 

今度は、写真家になると言い出す。

 

「学生ローンは、カメラ代で消えた。逃げも尻込みもしない。アルバイトをしつつ、写真家の道へ。新たな出会い。これぞ天職。今やオスロは違う街。新しい場所。新しい友達」(ナレーション)

 

そこで性差別表現のある作品で有名な「ボブキャット」の作者、アクセルを出会う。

 

ユリヤは恋に落ち、年の離れたアクセルと共同生活が始まる。

 

 

  • ほかの人々

 

アクセルの兄弟たちが子供を連れて集まり、休暇を共に過ごす。

 

活発に遊ぶ子供たち中心の集まりに戸惑うユリヤは、その夜、アクセルが子供を欲しいという話になり反発する。

 

「もうすぐ30歳だ。子供がいてもいい。僕は44歳だ。先の人生を考えるさ…」

「休暇も、そっちの仕事の都合に合わせてばかり…」

「子育てには僕も参加する。僕は子供が欲しいんだ…君なら、いい母親になるよ」

「私もいつかは子供が欲しいけど、今は分からない…」

「産む前に、何かを待ってるのか?」

「何かは分からない…あなたの都合と希望に合わせるのは嫌よ」

「分かった。なら、君の希望を聞こう」

 

ユリヤはそれには答えず、ベッドに入る。

 

 

第3章 浮気

 

アクセルの出版記念パーティーから先に家に帰るユリヤは、夕陽を眺めながら歩き、涙ぐむ。

 

通りがかりのパーティー会場に入り込み、ワインを飲んで見知らぬ男性に近づき、性的な会話を交えて接近するが、結局、朝まで何事もなく過ごし、別れ際に互いに名前を訊ねる。

 

「ユリヤ」

「僕はアイヴィン…」

「…さようなら」

「これ、浮気?」

「違うわ」

「だよな」

 

 

第3章 #MeeToo時代のオーラルセックス

 

ユリヤは「#MeeToo時代のオーラルセックス」というテーマで文章を書いている。

 

それをアクセルに読んでもらうと、「独創性がある」と褒められる。

 

「“#MeeToo時代のオーラルセックス”はネットで公開され、反響を呼び、議論となった」(ナレーション)

 

 

第4章 私たちの家族

 

30歳の誕生日のお祝いで、アクセルと共に実家を訪れるユリヤ。

 

来るはずだった父親は腰痛で行けないと言う。

 

「母エヴァは30歳で離婚。ひとりでユリヤを育て、出版社で経理を担当…祖母は30歳の時、3人の子を持ち、イプセンの演劇に出演した。曾祖母は30歳で夫を亡くし、4人の子供を育てた。曾祖母の母親は子供が7人。2人は結核で早世。その母親は商人の妻で、子供は6人、愛のない結婚だった…」(ナレーション)

 

後日、父の再婚先の家を訪ねるユリヤとアクセル。

 

アクセルが父を自宅へ誘うと、腰痛を理由に煮え切らない応答を繰り返す父。

 

父との関係がしっくりいかないユリヤに対し、帰りのバスでアクセルは、「君も自分の家族が要る」と本音を吐露するのだ。

 

 

第5章 バッドタイミング

 

勤務先の書店に、アイヴィンが恋人を連れやって来て、ユリヤは時めく。

 

「サングラスを忘れた」という嘘を言って、戻って来たアイヴィン。

 

「君のことをずっと考えてた。でも幸せな君を困らせたくない…だた、会って話したかった。いや、気にしないでくれ。でも、また会いたい。会うだけだ。湾岸エリアの“オープン・ベーカリー”で。僕の仕事場だ」

 

アクセルが兄夫婦と映画作品について議論しているが、全く興味を持てないユリヤ。

 

翌朝、アクセルがユリヤのコーヒーを入れる際、電気のスイッチを入れた途端に時間が止まる。

 

オスロの街中の時間が止まった中、ユリヤはアイヴィンの元へ走って行く。

 

アイヴィンが勤務先のベーカリーに到着し、二人は止まった時間の中で夜まで時を過ごす。

 

ベンチで朝を迎えた二人は別れ、ユリヤは再び走って自宅に戻り、電気をスイッチを切ると、時間が動き出した。

 

「話があるの」

 

「ユリヤは言った。“ずっと考えてた。あなたは悪くない”…」(ナレーション)

 

「あなたのせいじゃない。あなたは悪くないけど…」

 

「昔からある議論だ。2人とも分かっている。“タイミングが悪い。人生のステージが違い、求めるものも違う”」(ナレーション)

 

「求めるものも違う」

「別れる気か?」

「そう。終わりにしたい」

「そうか…分かった。それって本当に君の本心か?」

「どういうこと?」

「本当に分かってる?何をしてるのか、何を壊そうとしてるのか」

「もちろんよ。だから苦しいの」

「どこに住む?」

「分からない」

「分からない?」

「母の家とか」

「実家か」

「家を見つけるまで」

「分かった…待ってくれ」

「終わったの。それだけ」

「何か嫌なことがあって別れたいと?」

「違う。ずっと考えてて、確信に変わった」

「誰かと出会った?」

「違う」

「ユリヤ。勘弁してくれ。耐えられない。もういい。分かった。出て行けばいい。支度してくれ。歩いてくる」

 

「“あなたに合うのは、地に足がついてて、子供を望む人。信頼出来てテキトーじゃない人”」

「テキトーなところがいい」

 

「彼は言った。“テキトーな君に救われてる。仕事の息抜きになる。子供の件だけど、君を失うくらいなら子供は要らない”」(ナレーション)

 

「子供のことじゃないの」

「じゃ何だ?」

「私たちの人生を考えた結果よ」

「君は人生の危機にいるんだな…もし、まだ愛があるなら、やり直そう」

「愛してるけど、愛してもない」

 

「この言葉、この言い方から、ユリヤは彼と続けるのは、やはり無理だと感じた」(ナレーション)

 

「私の人生なのに傍観者で、脇役しか演じられない」

「行き詰って、変化が欲しいのは分かるけど、別れて解決するか?」

「そうやって私の気持ちを、すぐ上から決めつける」

「君がやることは、お見通しだ…君は父親に向き合うフリをしてるけど、本当は僕を利用している。哀れだな」

「私たちは、そこが合わないの。あなたは説明したがるけど、私は、ただ素直に感じたいの。あなたは強くあろうとする。言葉で説明するのが、強さだと思ってるんでしょ。人の心の中まで分析するのが強さだと。そんな見方ができない私は、あなたより弱いのね」

 

「ユリヤは言った。“別れたあと、独りになるのが怖い。氷上の小鹿みたい。だからこそ別れなきゃ”と。彼の言葉は聞き取れなかった。彼女は思った。“30歳の自分を小鹿に例えるなんて”と」(ナレーション)

 

「いてくれ。後悔するよ」

「絶対後悔する」

「そのうち君も子供が欲しくなるかもしれない。恋人だってできるだろう。僕らの関係の貴重さに、その時気づく」

「いつか、また元に戻るかも」

 

「そして続けた。“本心よ”」(ナレーション)

 

「本心よ」

 

 

第6章 フィンマルクの高山

 

アイヴィンと恋人がフィンマルクを登山し、テントを張って眠る。

 

翌朝、アイヴィンはテントから出て、トナカイに近接する恋人を凝視する。

 

「彼には“楽しい体験”だったが、彼女は深く感動した。何かに目覚め、彼女は名字を探した。祖父は北の出身らしい。DNAサンプルをアメリカに送って判明した。サーミ人の血が3.1%流れていると判明した彼女は、幻覚を起こす物質や儀式に傾倒。彼もそれを支えた。気候変動の現実を見て、彼女の意識は高まった。イヌイットは食料を失い、氷の融解がトナカイを脅かし、オゾンホールでアボリジニは皮膚がんに。アイヴィンはNY旅行を諦めた。もっと誠実で持続可能な生活を、もっと努力を、もっと原材料に注意を、環境負荷を考えて買い物を。プラスチックは海を殺す。国産タラは中国で加工。コバルト鉱山はコンゴを食い尽くす。“西洋の罪”が昼は彼の横に座り、夜はベッドで一緒。大義に勝るものなし。恋人やサーミ人への裏切りだ。自分が最悪の人間に思えたが、抗えなかった」(ナレーション)

 

アイヴィンは恋人に寄り添う疲弊感の中、パーティー会場でユリヤと出会い、恋をした。

 

これが、アイヴィンとユリヤの出会いの初発点だった。

 

 

第7章 新しい章

 

ユリヤとアイヴィンは、新しい生活をスタートさせた。

 

「環境悪化や人口増大の問題は深刻だ。次世代は苦労する。彼も子供は望まなかった。彼は明るいのに悲観的で、そこも魅力だった。魅かれた理由はほかにもあった」(ナレーション)

 

ユリヤはアイヴィンの携帯で元恋人のヨガサイトをフォローしていることを質す。

 

「環境関連のリンクに飛べるからさ。連絡は取り合っていないよ。フォロワー数は3万以上だ」

「彼女をフォローしても別に構わないけど、私には無理。セクシー路線でフォロワー集め」

 

そんな会話に終始した。

 

 

第8章 ユリヤのナルシスなサーカス

 

遊びに来た友人がマジック・マッシュルーム(幻覚作用を起こす毒キノコ)を見つけ、4人でそれを口にする。

 

激しい幻覚に襲われるユリヤ。

 

全裸になり暴走し、幻覚から覚めたユリアを優しく包み込むアイヴィン。

 

「あなたとだと、自然体でいられる」

「そう思うの、初めて?」

「初めてじゃないけど、無理してた。出会った頃のままでいようと」

 

ユリヤのナルシスなサーカスが、アイヴィンとの関係のピークアクトと化す章が閉じていく。

 

  

人生論的映画評論・続: わたしは最悪。('21)   終わりが見えない「自分探し」の旅に終止符が打たれいく  ヨアキム・トリアーより