用心棒('61)   純度100%のエンタメ時代劇の決定版

1  「用心棒にも色々ある。雇った方で用心しなきゃならねぇ用心棒だってあらぁ」

 

 

 

風来坊の素浪人・三十郎がやって来た宿場町には、賭場の元締めの清兵衛一家と、跡目相続への不満で独立した清兵衛の弟分の丑寅一家との争いが絶えず、すっかり荒廃していた。

 

声をかけられて入った居酒屋の権爺(ごんじい)から、その経緯を聞かされた。

 

「事の起こりは、馬目(まのめ/この宿場町の名)の清兵衛の跡目相続よ。実の子可愛さにをそっくりそいつに譲ろうとした。こいつがいけねぇや。一の子分が承知するわけゃねぇや。またこの一の子分の新田の丑寅(うしとら)って野郎がおめぇ…清兵衛に杯を叩きつけて、新田村(しんでんむら)から乗り込んで来た。清兵衛一家が真っ二つよ。決着付けるのはドスしかねぇや。そこで清兵衛も丑寅も、目の色変えて無宿者や凶状持ち(前科者)をかき集めて…」

 

そこに隣の桶屋に、丑寅の弟の亥之吉(いのきち)が配下を連れてやって来た。

 

権爺は窓の隙間から覗きながら、「少し足んねぇが、暴れ出したら手が付けられねぇ。また人殺しを3人仕入れて来やがった」とぼやくのだ。

 

見ると、番太(ばんた/治安を守り処刑などに携わっていた番人)は取り締まりもせず、亥之吉と談笑し、へつらっている。

 

更に権爺は、向かいの絹問屋の多左衛門(たざえもん)の家を三十郎に見せ、宿場の世相を嘆くのである。

 

「こいつがしっかりしてりゃ、こうはならねぇんだが、総代名主(そうだいなぬし)のくせに、から意気地がねぇ。これまで清兵衛に肩入れして何とかやってきた。ところがおめぇ、今度の騒ぎをきっかけに、この造酒屋(つくりざかや)の徳右衛門(とくえもん)が丑寅の尻押しをして、次の名主は俺だとばかり、絹にまで手を出して横車を打ち出した。こうなると多左衛門の野郎、手も足も出ねぇ。家にすっこんだきり、清兵衛が勝ちますようにとお題目ばっかり上げていやがる」

 

そんな事情で、この宿場町はもうお終いだから、さっさと逃げ出すよう促したが、三十郎は意に介さない。

 

「この町は気に入った。腰を据えるぞ」

「俺があれほど言ったのに、まだ分からんねぇのか」

「よく分かった。だから俺はここに残る。今この町では人を斬れば金になる。しかもこの町には、叩き切った方がいいような奴しかいねぇ。まあ、考えてみろ。清兵衛や丑寅、その他博打ち無宿者が皆くたばったら、この宿場もすっきりするぜ」

「無茶だ!命がいくつあったって、そんなことはできっこねぇ」

「俺一人で皆叩き斬るつもりはねぇよ」

「じゃ、どうする気だ」

「酒を飲みながら、よく考える」

 

さっそく三十郎は、清兵衛の家に行って呼び出し、「俺を買わんか。用心棒にどうだ。腕は今見せる」と言うや、丑松の家に向かっていく。

 

三十郎は丑松一家のチンピラを挑発し、3人をいとも簡単に斬り倒してみせ、それを見ていた清兵衛は三十郎に値を吊り上げられ、前金二十五両を渡すことを条件に、五十両で雇うことになった。

 

三十郎が清兵衛から酌を受けていると、女房のおりんが入って来て、清兵衛を呼び出した。

 

三十郎は後をつけ、清兵衛とおりんの話を盗み聞く。

 

夜逃げを心配するおりんに、清兵衛は今日これから三十郎を先に立て、丑松の家に殴り込むと言うのだ。

 

「こっちが勝ったところで、あいつを殺しゃぁ、丸々五十両助かるんだがねぇ…味方だと思って油断しているところを、後ろから叩き斬りゃあ、わけないさ」

 

おりんは、気弱な倅の与一郎にやってみろとけしかける。

 

一部始終を聞いた三十郎は、清兵衛から約束の二十五両を受け取り、一同の顔合わせが行われた後、早速、丑寅一家への決起に駆り出された。

 

清兵衛一家と丑寅一家が相対峙(あいたいじ)したところで、三十郎は、「やるなら勝手にやれ。俺は御免だ。かみさんや、お生憎様だが、喧嘩に勝った後で殺されるのはまっぴらだ」と、受け取った二十五両を投げ返し、清兵衛一家を後にして、丑寅に大声で呼びかける。

 

「腹に据えかねることがあって、清兵衛一家と手を切った!話はそれだけだ」

 

そう言うや、三十郎は火の見櫓(ひのみやぐら)に上り、双方の戦いぶりの高みの見物と決め込むのである。

 

両陣共にへっぴり腰でなかなか接近できずに膠着しているところに、八州廻り(はっしゅうまわり/幕府の役人)が来るとの情報で、抗争は中断するに至った。

 

八州廻りが居座ることで、抗争は沈静化するが、その間、三十郎が逗留する居酒屋に両家がやって来て、盛んに用心棒の誘いを仕掛けて来るのだ。

 

しかし、三十郎は双方に値を競わせ、八州廻りが出ていくまで返事を先延ばしにすることにした。

 

丑寅の差し金で町役人が殺されたことで、いよいよ八州廻りが発つことになったが、三十郎の元には、両家の誘いは来なかった。

 

訝る三十郎に権爺が詰(なじ)る。

 

「侍のくせに金のことばかり言って」

「恐ろしく危なくて汚い仕事だ。よほど取らなきゃ行く気はねぇ」

「たかが用心棒になるだけじゃねぇか」

「用心棒にも色々ある。雇った方で用心しなきゃならねぇ用心棒だってあらぁ」

 

そこに桶屋が来て、旅から帰った丑寅一家の一番下の卯之助(うのすけ)の進言で、両家が手打ちをしたと話す。

 

その卯之助が外で番太を相手に、懐から拳銃を出して見せびらかし、半鐘(はんしょう)を撃って見せた。

 

手打ちとなった途端、多くの無宿者の凶状持ちが解雇され不満をぶちまけ、その中に丑松が差し向けた役人殺しの下手人もいた。

 

三十郎はその下手人2人を八州廻りに突き出して丑松らを捕縛させようと、清兵衛に引き渡して金を受け取る。

 

三十郎はその足で丑松に会い、下手人が清兵衛に捕まったとの情報をもたらし、再び用心棒になってくれと言われるが、僅かな金を受け取り、その誘いを留保した。

 

話を聞いた卯之助が与一郎を捕らえ、下手人との交換を清兵衛に要求する。

 

両者が近づき、いざ交換というところで卯之助は銃で下手人を撃ち殺し、与一郎を解放しなかった。

 

それに対し、清兵衛は丑寅と連(つる)む造酒屋の徳右衛門の情婦のおぬいを人質として引ったてて来た。

 

おぬいは、百姓の夫・小平(こへい)が博打で負けた借金の形に、丑寅が徳右衛門に差し出した女だった。

 

権爺が小平とおぬいの息子を連れて来て、居酒屋から覗く息子が「おっかぁー!」と叫ぶと、おぬいは店に走り寄るが引き剝(は)がされ、人質交換は成立するに至る。

 

ここから、エンタメ時代劇の勝負どころと化して一気に開かれていく。

 

人生論的映画評論・続: 用心棒('61)   純度100%のエンタメ時代劇の決定版   黒澤明