2012-04-04から1日間の記事一覧

幕末太陽傳('57) 川島雄三  <自由なる魂が隠し込んだ侠気 ―― 或いは、孤独なる確信的逃走者>

攘夷に狂奔する若き「志士」たちが、馬で逃げる二人の英国人を抜刀して追っていく。しかし、ピストルで応戦する英国人に太刀打ちできる訳がない。一人のラジカル・ボーイがその銃丸に倒れて、呆気なく彼らの攘夷は頓挫した。男は懐中時計を落として、その場を…

放浪記('62)  成瀬巳喜男   <天晴れな映画の、天晴れな表現宇宙が自己完結したとき>

1 成瀬映画の集大成としての「放浪記」 「放浪記」は成瀬映画の真骨頂を発揮した作品である。 その意味で、成瀬映画の集大成でもあると言える。 作品の内に、成瀬映画を特徴づける人生観、人間観のエッセンスが収斂されていると思えるからだ。 私見によれば…

秋立ちぬ('60)  成瀬巳喜男   <削りとられた夏休み>

序 大人は当てにならない 「人生は思うようにならない」 成瀬映画を一言で要約すると、恐らくこの表現が一番近い。 人生を自然のままに切り取ろうとすると、客観的にはどうしても滑稽であったり、哀切であったり、そしてしばしば残酷であったりすることは避…

妻('53)  成瀬巳喜男   <覚悟を決めた女、覚悟できない男>

1 煎餅を齧る妻、布団の中に潜り込む夫 1950年代初めのこの国の、とある木造家屋が、朝の外光を浴びた裏通りに融合した絵画のようにして、比較的明るい長調の旋律に乗って映し出されてくる。 今度は、その家屋に住む中年夫婦が、いつでもそうであるよう…

石中先生行状記(「千草ぐるまの巻」)('50) 成瀬巳喜男  <共同体を繋ぐ天使 ―-― 「ナチュラル・スマイラー」の底力>

序 何とも言えない温和な空気感 原作は、石坂洋次郎の著名な作品。 本作は、その中から三つの物語を映像化したオムニバス作品になっている。三篇ともユーモアたっぷりなほのぼのとした作品に仕上がっているが、私を魅了したのは、何と言っても、三話目の「千…

晩菊('54) 成瀬巳喜男  <それでも女は生きていく>

1 人間の卑屈なさまをも容赦なく映し出す成瀬ワールドの中に 杉村春子、望月優子、細川ちか子。 この三人の女優の味わいのある演技の交錯が、物語を最後まで引っ張って行く。 共に昔芸者をしていたが、零落した二人が、今や高利貸しとなった杉村春子に借金…

流れる('56) 成瀬巳喜男  <今まさに失わんとする者たち>

1 シビアな現実を、淡々と、しかし残酷に描き切った成瀬映画の最高到達点 「男を知らないあなたに、何が分るって言うのよ!」 「男を知っているってことが、どうして自慢になるのよ!」 「へぇ、このお嬢さんは大変なことをおっしゃいましたよ。女に男がい…