「これは実話の映画化である。実際の事件は、1987年ミネソタ州で起こった。生存者の希望で人名は変えてあるが、死者への敬意を込めて、事件のその他の部分は忠実な映画化を行っている」
これが冒頭の字幕である。
その次に映し出された風景は、雪靄(ゆきもや)の深い白銀の世界。
そこに一台の車が、故障と思しき車を牽引している。
画面はまもなく、ノースダコタ州ファーゴ(注1)に向うその車をフォローしていく。一人の男が車から降りて来て、待ち合わせのバーに入っていく。そこには、二人のいかつい顔の男がいた。車の男は二人に自己紹介した。
「ジェリー・ランディガードだ」
「あんたが?」とビールをラッパ飲みしていた小男。
「シェブの紹介だ」
「7時半の約束だぞ」
「8時半では?」
「1時間待った。こいつは小便3回」と小男。
隣に座る無口な大男を指して、一人で喋っている。
「すまない。シェブは8時半だと・・・間違いだ」
「車は?」
「駐車場に入れた。新車のシエラだ」とジェリー。
彼が牽引していた車は、新車だったのである。
「よし、かけな。俺はカール。パートナーのゲア」と小男。
その名はカール。隣の男の名はゲア。何も喋らない。
「よろしく。で、すべて了解を?」
「心配なのか?」
「違うよ。シェブの保証付きだ。君らを信用している。じゃあ、これが車のキーだ」
「それだけか?新車と4万ドルだろ?」
「約束では、まず車を渡して、4万は身代金の形で支払うはずだ」
「シェブの話とは違う。第一、約束は7時半だ」
「それは間違いだ」
「聞いたよ」
「前金で払う約束はしていない。まず、君らに新車を渡して、それから・・・」
「議論は止せ。議論しにきたんじゃねえ。そっちの話が呑み込めねえ」
「計画はちゃんと出来ている」
「自分の女房を誘拐?」
「ああ」
「俺たちに誘拐させて、身代金を8万払い、半額の4万をあんたが取り戻す?自分が払った金を取り戻すのか?」
「僕が払うんじゃない。女房とその親父が金持ちなんだ。僕のトラブルを・・・」
「トラブルって?」
「その話はあまりしたくない。とにかく金が必要で、舅(しゅうと)の金を」
「直接頼めば?かみさんは?」
「頼めないんだ。二人は僕のトラブルを知らないし、金など出さない。とにかく僕の個人的な問題だ・・・」
「俺たちに、こういう仕事を頼んで置きながら・・・とにかく車を見よう」
なかなか進展性の乏しい以上の会話の中で、ジェリーという男が何のためにこのバーに来たのか、その理由だけは了解できる。
終始大男は無言だったが、ただ一言、ジェリーに「かみさんは?」と最初に聞いた言葉だけを残すに止まった。しかし隣のお喋り好きそうな小男が、空気を一人で支配しようとする、ちっぽけな見栄だけがそこに露呈されていた。
これが冒頭の字幕である。
その次に映し出された風景は、雪靄(ゆきもや)の深い白銀の世界。
そこに一台の車が、故障と思しき車を牽引している。
画面はまもなく、ノースダコタ州ファーゴ(注1)に向うその車をフォローしていく。一人の男が車から降りて来て、待ち合わせのバーに入っていく。そこには、二人のいかつい顔の男がいた。車の男は二人に自己紹介した。
「ジェリー・ランディガードだ」
「あんたが?」とビールをラッパ飲みしていた小男。
「シェブの紹介だ」
「7時半の約束だぞ」
「8時半では?」
「1時間待った。こいつは小便3回」と小男。
隣に座る無口な大男を指して、一人で喋っている。
「すまない。シェブは8時半だと・・・間違いだ」
「車は?」
「駐車場に入れた。新車のシエラだ」とジェリー。
彼が牽引していた車は、新車だったのである。
「よし、かけな。俺はカール。パートナーのゲア」と小男。
その名はカール。隣の男の名はゲア。何も喋らない。
「よろしく。で、すべて了解を?」
「心配なのか?」
「違うよ。シェブの保証付きだ。君らを信用している。じゃあ、これが車のキーだ」
「それだけか?新車と4万ドルだろ?」
「約束では、まず車を渡して、4万は身代金の形で支払うはずだ」
「シェブの話とは違う。第一、約束は7時半だ」
「それは間違いだ」
「聞いたよ」
「前金で払う約束はしていない。まず、君らに新車を渡して、それから・・・」
「議論は止せ。議論しにきたんじゃねえ。そっちの話が呑み込めねえ」
「計画はちゃんと出来ている」
「自分の女房を誘拐?」
「ああ」
「俺たちに誘拐させて、身代金を8万払い、半額の4万をあんたが取り戻す?自分が払った金を取り戻すのか?」
「僕が払うんじゃない。女房とその親父が金持ちなんだ。僕のトラブルを・・・」
「トラブルって?」
「その話はあまりしたくない。とにかく金が必要で、舅(しゅうと)の金を」
「直接頼めば?かみさんは?」
「頼めないんだ。二人は僕のトラブルを知らないし、金など出さない。とにかく僕の個人的な問題だ・・・」
「俺たちに、こういう仕事を頼んで置きながら・・・とにかく車を見よう」
なかなか進展性の乏しい以上の会話の中で、ジェリーという男が何のためにこのバーに来たのか、その理由だけは了解できる。
終始大男は無言だったが、ただ一言、ジェリーに「かみさんは?」と最初に聞いた言葉だけを残すに止まった。しかし隣のお喋り好きそうな小男が、空気を一人で支配しようとする、ちっぽけな見栄だけがそこに露呈されていた。
(人生論的映画評論/ファーゴ('96) コーエン兄弟 <確信的日常性によって相対化された者たちの、その大いなる愚かしさ>)より抜粋http://zilge.blogspot.com/2008/11/96.html