2016-03-01から1ヶ月間の記事一覧

おみおくりの作法(’13) ウベルト・パゾリーニ  <「孤独死」のリアリズムの風潮を反転させ、「葬送儀礼」の本質を描き切った秀作>

1 「孤独死」した人の葬儀に誠心誠意を尽くす男の物語 道路を渡るとき、車が通らない状況下でも、青信号になって、左右を確認し、道路を渡る男がいる。 この極端に几帳面な性格を持つ男の名は、ジョン・メイ(以下、ジョン)。 様々な事情で「孤独死」した…

黒衣の刺客(‘15)  ホウ・シャオシェン <「今、ここから」、暗殺者の人生の時間が変換されていく>

1 政治に翻弄され続ける暗殺者の悲哀と新たな旅の物語 8世紀の中国は、第9代皇帝・玄宗(げんそう)の出現で絶頂期を迎えたと言われる唐王朝の時代だった。 しかし、多くの場合、絶頂期は衰退期の始まりになる。 辺境防衛の目的で設置された強大な軍事力…

私の、息子(‘13) カリン・ピーター・ネッツァー <〈状況〉を開き、その〈状況〉の中枢点に自己投入する「胎児」の「恐怖突入」の物語>

1 階級的特権が優位に、且つ効果的に機能し、温存されている社会の中枢で起こった交通事故 凄い映画を観た。 余計な描写を切り取ったラストシーンに震えが走った。 全てとは言わないが、説明セリフを捨てられるヨーロッパ映画の厳しさを観せられると、徹底…

初恋のきた道(‘99) チャン・イーモウ <「再構成的想起」による完全無欠な純愛映画>

1 村と町をつなぐありふれた山道で愛し合った父と母の物語 「父が突然、死んだ。私の故郷は三合屯(サンヘチュン)という小さな山村。父は村の小学校で、ずっと教師をしていた。私は一人っ子で、村でただ一人、大学に行った。残された母が、どうしているか…

心の風景・「『感情』が人間を支配する」

1 感情とは何か 私たちは普段、様々な感情経験をしているが、現代人にとって、感情は目的遂行の弊害となったり、事態を抑制できずに悪化させたりなど、どちらかと言えば、ネガティブなイメージを持たれやすい。 このことは、日常的に活用するインターネット…