2016-08-01から1ヶ月間の記事一覧

未来を生きる君たちへ(’10) スサンネ・ビア<「やられたら、やり返す」 ―― それは、人類が本能的に獲得してきた「生き延び戦略」の結果である>

1 暴力・復讐・悲嘆・許し・親愛・友情・ 理想・喪失 ―― 二つの家族が交差し、負ったものの重さ デンマークの海沿いの町に住むエリアス少年。 そのエリアス少年は、地域医療に従事する内科医の母・マリアンと、年の離れた弟・モーテンと暮らしているが、ア…

真夜中のゆりかご(‘14) スサンネ・ビア <「理想自己」と「現実自己」、「現実自己」と「義務自己」の乖離が哀しみや不安・恐怖を生む危うさ>

1 基本ヒューマンドラマ・一篇のサスペンス映画の鋭利な切れ味 「出勤した先に、昔、逮捕した男がいて、トリスタンっていうクズ野郎だ。奴に息子が生まれてた。その子は自分の糞尿にまみれ、凍えてたよ。それで君に電話したくなって。つい、かけたんだ」 デ…

エル・スール(’82) ビクトル・エリセ <父が失った振り子を繋ぎ、それを自我の確立に変換させ、昇華し、社会的に自立していく娘の物語>

ゼロ年代以前に作られたヨーロッパ映画の中で、ベルイマンとハネケ映像群を別格にすれば、私はこの「エル・スール」が一番好きだ。 オメロ・アントヌッティの僅かなセリフと表情のみで、人間の孤独の極限的な様態を、ここまで抉(えぐ)り出した映像に、唯々…

野火(’14) 塚本晋也 <究極のサバイバルスキルに振れていかない男の煩悶の、唯一可能な防衛機制>

1 人間が人間であることの根源性が問われるレイテ島の凄惨さ ガダルカナル島の撤退(1943年2月)などで戦線を押し込まれたことで、大日本帝國が策定した防衛計画・「絶対国防圏」が、サイパン島陥落(1944年7月)によって崩壊した。 今や大本営は…

名もなき塀の中の王(’13) デヴィッド・マッケンジー<「態度変容」の可能性を広げていく、過剰防衛反応としての「定常的構え」という行動様態>

1 「凶暴で反抗的」とラベリングされた青春の、 小さくも確かな変容 19歳のエリック・ラブ(以下、エリック)が英国の成人刑務所に移送され、「要注意人物」として、舎房棟の中の独居房に強制収容されるに至ったのは、少年院で暴力事件を起こしたことが原…