風景への旅(四季の武蔵野)

 梅郷と言ったら、吉野梅郷

 私の中ではそれしかない。

 関東近県で、これに勝る風景美を見せてくれる梅郷を私は知らない。

 その最大の理由は、私の好きな色彩豊かな紅梅が多いからである。

 それは白梅の海の中に紅梅が点在するというよりも、紅梅のピンクや赤の色彩が周囲の白梅と見事に調和して、素晴らしい風景美を演出してくれというイメージに近い。

 私が一度も訪ねたことがない水戸偕楽園秋間梅林群馬県安中市)を除いて、「関東三大梅林」と言われるものの中に、武蔵野の風情を存分に伝える越生梅林があるが、残念ながら、ここには紅梅が殆ど存在しないのである。

 その理由は、観賞用に栽培されている「花梅」と異なって、果樹として栽培される「実梅」が目的なので、紅梅系ではなく、白梅を植林している農家が多いからである。

 風情はいいが、私の求める色彩美に、今ひとつ届いていないのだ。

 そして、雪化粧をした富士を借景にする、小田原市曽我梅林も魅力的な梅林の一つだが、如何せん、そこに至るまでの所要時間が長過ぎて、それこそ、一日がかりの観梅ツアーということになる。

 加えて、越生梅林と同様に白梅オンリーの上、そのスケールが大き過ぎて、長閑な散策を楽しむという印象が希薄だった。

 やはり白梅が中心でも、ここで紹介する、旧甲州街道沿いにある高尾梅郷のケースは、JR高尾駅からバスに乗らず、遊歩道を辿っていくコースを選択すれば、結構、魅力的な梅林ツアーになる。

 そこがいい。

 現在はどうなっているか知らないが、当時、三大梅林(或いは、四大梅林)に比べて訪れる人も少なく、穴場の梅林という点が何より魅力的だった。

 小規模な4つの梅林を合わせて高尾梅郷と称するのだが、一万本の梅が咲くという市役所観光課の振れ込みに相応しく、ボリューム感があるという印象が深かった。

 如何にも、近隣の農家の梅園という風情で、そこに感じられる生活臭こそが、この梅郷の特色なのだろう。

 2月の中旬から始まる梅祭りの初期には殆ど花がなく、気温の関係から吉野梅郷と同様に、3月中旬から下旬の時期に訪ねるのがベストの選択。

 そして、その時期から2週間も経てば、ここでも収めてある多摩森林科学園という、桜の究極的名所が最も華やぐ季節を迎え、まさにJR高尾駅は多くの観光客でごった返すことになる。

 他にもここでは、新緑とシダレザクラの平林寺や雪の平林寺境内林、等々の写真が収められていて、私にとって、四季の武蔵野の知られざる風景美と出会えた至福の思いが、いつまでも心中に刻まれている。
 
 
[ 思い出の風景/風景への旅(四季の武蔵野) ]より抜粋http://zilgf.blogspot.com/2011/08/blog-post_20.html