エイリアン1('79)  リドリー・スコット  <「無秩序な稜線伸ばし」を相対化し切ったSFゴシックホラーの凄味>

 1  自己増殖する異界の完全生物との、閉鎖空間での戦争の果てに



 内部で生産した工業製品の販売を目的にした民間のスペース・シャトル、それが宇宙貨物船ノストロモ号だった。

 ところが、その宇宙貨物船が地球に向かって帰航中に、電算機(マザー・コンピューター)が発信者不明の電波信号を受信したことで、7名の乗組員は、「知的生物からと思われる信号は調査すること」という命令を受けた。

 ダラス船長はケイン一等航海士、ランバート操縦士を随伴し、武器を携帯して信号発信地へ向かうが、苦労の末に発見した宇宙船には、破裂して骨が曲がり、既に死に絶えた化石化した宇宙人(スペースジョッキー)だけが捨てられていた。

 探査を続ける3人は、まもなく巨大な卵状の物体を発見し、それに近づいたケインは、突如飛び出して来た生物に顔面を塞がれてしまった。

 ノストロモ号にケインを運んで、彼の救出のため、ダラスはケインに張り付く生物を突き刺したとき、その切り口から強い酸性の液状のラインが流れ、宇宙貨物船の床が溶ける始末。

 「ひでえ所に来ちまった。早く修理して帰ろうぜ」とパーカー技師。
 
 事態は、そんな流暢な次元を一気に越えていく。
 ケインに取り付いていた生物は束の間姿を消したが、それを捕獲したリプリー二等航海士らの反対を押し切って、アッシュは科学者の立場から保存の必要性を説くことで、修理を終えた宇宙貨物船は、異界の生物を乗せて再出発するに至った。

 まもなく、健康を回復したケインの第一声。

 「急に息が詰まった。悪夢のようだよ。何か食わせてくれ」

 いつもの穏やかな食事が開かれた。

 突然、ケインが悶絶し始めたと思ったら、彼の胸部から謎の宇宙生物(エイリアン)の幼体が飛び出して来た。

 ケインの体内で、エイリアンは成長し続けていたのだ。

 ケインの体内に寄生した生物は、まさに宿主であるケインの体内で幼体に成長した後、その宿主を食い千切って孵化したのである。

 更に、その幼体は脱皮を繰り返して巨大な成体(エイリアン)と化し、今度は、このエイリアンが他の宿主となり得る生物の捕獲を遂行することで、自己増殖していくのだ。

 この異常事態の中で、宿主として利用され尽くしたケインは絶命した。

 結局、ノストロモ号が受信した電波信号は、宇宙人の警告であることが判明するに至った。

 ケイン亡きノストロモ号の6名の乗組員は、火炎放射器を用いてエイリアンをエアロック(気圧調整室)に導くことで、宇宙への放出を狙ったが、エイリアンの逆襲に遭って、一人ずつ命を落としていく。

 まず、ブレット機関長が犠牲になった。

 ダラス船長は、メインであるマザーコンピューターに助けを求めたが、その答えは彼を愕然とさせるものだった。

 「異星人対策 現行方式の評価は?:データ不足 解析不能

 「他の手段はあるか?:データ不足 解析不能

 「生き残るチャンスは?:計算不能

 まもなく、ダラス船長もエイリアンの犠牲になった。
 仲間を3人喪った後、今度はリプリーがマザーコンピューターに向き合った。

 「異星人対策が進まぬ理由は?:解答不能

 「推理せよ:必要なし 特別指令937 科学部長専用」

 「緊急質問 特別指令937とは何か?:・・・」

 「航路変更 異星生物を調査せよ 標本を採集せよ」

 「乗船員は場合により、放棄して良し」

 信じ難き応答の中で、事情を説明しようとするアッシュを、リプリーは責め立てる。

 アッシュがリプリーに襲いかかって来たのは、この直後だった。

 逃げ惑うリプリーを、パーカー技師とランバート操縦士が救い、アッシュを斃したが、彼の頸が捥(も)げたことで、アッシュがロボットである事実が判明したのである。

 「異星人を連れ帰らせるために、本社が乗せたんだわ」

 このリプリーの一言で、マザーコンピューターの不可解な応答の謎が解けたのである。

 アッシュは本社の命を受け、異界の生物を地球に運ぶ任務を負っていたのである。

 捥(も)げた頸のアッシュが、パーカーの質問に答える。

 「俺たちの命はどうなるんだ!」
 「勿論、二の次だ」

 「あの生物はどうやったら殺せるの?」とリプリー
 「無理だ。あれが何か分らんのか?完全生物だ。構造も攻撃本能も見事なものだ。素晴らしい純粋さだ。生存のため、良心や後悔などに影響されることのない完全生物だ。君たちも生き残れない。同情するよ」

 思わず、アッシュの頸を蹴飛ばしたリプリーは、パーカーに命じた。

 「船を爆破して、シャトルに移りましょう」

 シャトルに移る準備の中で、パーカーとランバートがエイリアンに襲われ、命を落とすに至った。

 アッシュの予言通りになっていくが、ノストロモ号の生存者はリプリー一人になった。

 船の自爆装置の解除操作に失敗したリプリーは、地球から連れて来た唯一の動物である猫を連れてシャトルに乗り込み、ノストロモ号から分離させた状態で、地球に向かったのである。

 まもなく、カウントダウンがゼロとなって、ノストロモ号は自爆した。

 しかし、シャトル内でのリプリーが安堵の溜息を漏らす間もなく、その限定空間にエイリアンが潜んでいた。
 
 最後の力を振り絞ったリプリーの戦争は、エイリアンをシャトルから振り落とすことで自己完結を遂げていったのである。
 
(人生論的映画評論/エイリアン1('79)  リドリー・スコット  <「無秩序な稜線伸ばし」を相対化し切ったSFゴシックホラーの凄味>)より抜粋http://zilge.blogspot.com/2010/06/79.html