レオン 完全版('94)  リュック・ベッソン <「静」によって支配される「動」が炸裂するとき>

 1  復讐劇の時間の中へ



 ニューヨークのリトル・イタリーに住む、ウオッチキャップ(米国海軍の水兵が防寒用に被ったニット製の帽子)を冠る、一人のイタリア人。

 ファーストシーンでの、殺しの描写の緊迫感の導入は見事。

 これで、観る者を一気に映像に惹き付ける。

 父の眼を盗んで、煙草を吸う少女。

 同じアパートに住む、仕事帰りのレオンとの交叉。

 「親に言わないで」

 少女はレオンに懇願した。

 「殺しのプロ」であるレオンは、特段の反応をすることなく自室に戻っていく。

 完璧な健康管理のため、一日2パックの牛乳と厳しい肉体鍛錬を必要とする男は、アパートの自室で、鉢植えの観葉植物に水を与える細(ささ)やかかな行為に喜びを見い出していた。

 翌日のこと。

 「買い物に行くの?2パックの牛乳いる?」と少女。

 肯くだけのレオン。映像での2度目の交叉である。

 事件は、その直後に起こった。

 ヘロインを盗んだ少女の父親が、如何にも物騒なマシンガンを手にした麻薬取締局のスタンフィールドらに襲われ、家族もろとも情け容赦なく殺害されたのだ。

 その中には、4歳の男の子も含まれていた。

 買い物に出掛けていたため、難を逃れた少女はレオンに助けを求め、事情を知悉していたレオンは一瞬躊躇するが、少女の涙ながらの訴えに反応し、自室に匿った。

 「名前は?」とレオン。
 「マチルダ」と少女。嗚咽している。
 「お父さんが・・・」
 「いずれは、私が殺してたわ」
 「お母さんも・・・」
 「継母(ままはは)よ。姉さんの関心は、体重を減らすことだけ。腹違いよ。本当に最低の奴だったわ」
 「じゃ、なぜ泣く?」
 「弟のためよ。まだ4歳だったのに・・・悲しいとき、私によく抱きついてきたわ・・・」

 そんな暗鬱な身の上話を聞かされたレオンは、豚の指人形をはめ、声色を変えて、少女を慰めようとした。

 微笑む少女。
 「あなたの仕事は何?」
 
 レオンの拳銃ケースを開いた少女は、唐突に尋ねた。
 
 「掃除屋だ」
 「殺し屋ね」
 「ああ」
 「素敵。誰でも殺すの?」
 「女と子供以外は」
 「弟の仇を討つのに、幾らいる?」
 「一人5000」
 「何でもやるから、殺し方を教えて?」
 「ダメだ」
 「どうすればいいの?帰る所もないわ」
 「今日はもう寝ろ」

 ベッドで休む少女。

 「あなたみたいな優しい大人もいるのね」

 熟考の末、秘密を知られたレオンは少女を殺そうとして、寝姿の少女に銃口を突き付けるが断念した。

 「女と子供以外は殺さない」という男のルールが、少女の命を救ったのである。

 
 
(人生論的映画評論/レオン 完全版('94)  リュック・ベッソン <「静」によって支配される「動」が炸裂するとき> )より抜粋http://zilge.blogspot.com/2010/06/94.html