<ジャーナリズムの役割とは何か ―― 「記事にしない場合の責任」を衝く大傑作>
1 「カトリック教会の性的虐待事件」の真実を剔抉した、緊張感漲る真摯な映像
ニューヨーク・タイムズ社の傘下に入った「ボストン・グローブ」社。
150年の歴史を持ち、ボストンで最大の部数を発行する日刊紙である。
2013年に、この「ボストン・グローブ」が、親会社のニューヨーク・タイムズの経営方針によって、MLBの名門であるボストン・レッドソックスのオーナーに売却することが発表されたが、センセーショナルな報道内容で、2003年にピューリッツァー賞の公益報道部門を受賞した功績は、今でも変わらぬジャーナリズム精神で、ボストン市民に読まれ続けている事実によって検証されるだろう。
ピューリッツァー賞を受賞した報道の内実は、ただ一点。
常に現在的テーマになっている、「カトリック教会の性的虐待事件」の真実を剔抉(てっけつ)したこと。
思うに、このテーマは、ボストンでは禁忌だった。
マサチューセッツ州ボストンには、1840年代後半に惹起した「アイルランド・ジャガイモ飢饉」で、アメリカに移民して来たアイルランド系と、その後のイタリア系移民が多く、当然、その宗教的風土はローマ・カトリックが主流を占める。
カトリックの人口比が、全米平均で約20%に過ぎないにも拘らず、ボストンの場合、その人口比が約50%と言われている。
更にボストンは、13植民地(アメリカ大陸のイギリス植民地で自治を実行)の中で、植民に成功したバージニア植民地(1607年設立)と共に、「プリマス植民地」(1620年設立)をルーツに持ち、アメリカ合衆国で最も古いエリアであるニューイングランドにあって、「ニューイングランドの首都」と称されるほど、アメリカ合衆国北東部の6州(北から南へメイン州、ニューハンプシャー州、バーモント州、マサチューセッツ州、ロードアイランド州、コネチカット州)の中枢都市である。
治安も良く、米国内でも最も安全な都市の一つとされる歴史的な地域で、あってはならない犯罪が惹起した。
それを報道する「ボストン・グローブ」。
その衝撃は、多くのボストン市民の心を痛めた。
しかし、その報道は見紛(みまが)うことのない事実だった。
それでも、ボストン市民は「ボストン・グローブ」を読むことを止めない。
信頼されているのだ。
以下、「ボストン・グローブ」の「スポットライト」のチームによって暴き出された実話を、緊張感漲(みなぎ)る真摯な映像をフォローしながら再現していきたい。
以下、人生論的映画評論・続 スポットライト 世紀のスクープ('15) トム・マッカーシー より