グリーンブック('18)   ピーター・ファレリー

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<「情動的共感」の感覚が粗野な男の人格総体を噴き上げ、全く異なる生い立ちを有する二人の心理的距離が最近接する>

 

 

1  無教養なガードマンの、間違いだらけの手紙を手解きする教養豊かな黒人ピアニスト

 

 

黒人差別真っ只中の1962年。

 

ディープサウスを主要舞台にした本作は、ジャマイカ系黒人ピアニストと、彼をガードするイタリア系白人との曲折的交流を描く典型的なバディムービー。

 

且つ、コメディ風味満点のロードムービーである。

 

前者の名はシャーリー、後者の名はトニー。

 

上品で教養豊かなシャーリーと、粗野で無教養なトニーという、如何にも映画になりやすい非対称な関係構図である。

 

カーネギーホールの上に住む、著名なミュージシャンのシャーリーがトニーに頼んだのは、ニューヨーク・ブロンクスを起点に、ディープサウスを回るコンサート・ツアーの車の運転の仕事。

 

更に、スケジュール管理、助手役、身の回りの世話などであるが、最も重要な役割は、シャーリーのボディ・ガードであった。

 

レコード会社からトニーが受け取ったのは、黒人が宿泊可能なホテルのガイドブック、即ち、「グリーンブック」。

 

この「グリーンブック」を伝手(つて)に、テンポよく物語は展開していく。

 

ディープサウスに入って、黒人差別の現実を目の当たりにするシャーリー。

 

畑を耕す黒人奴隷が、背広を着た自分を恨めしそうに見つめているカットは鮮烈だった。

 

十分なコミュニケーションが成立しない二人が接近した、一つのエピソードがある。

 

それは、毎日、妻ドロレスに間違いだらけの手紙を書くトニーに、シャーリーが、「汚い言葉を使わずに、誰にも書けない手紙を」と手解(ほど)きしたのだ。

 

「“愛するドロレス 君を想うと、アイオワの美しいプレーンが目に浮かぶ。僕らを割く距離が、気を滅入らせる。君のいない時間と経験は意味がない。君との恋は、前世からの運命だ。生きている限り、君を想い続ける”」

 

言われた通りに、書き留めるトニー。

 

ブロンクスで、それを読むドロレスは、感無量の表情を映し出していた。

 

そんな中、高い教養と上流階級の生活習慣を身につけたシャーリーが、高級紳士服の店のショーウィンドウの一着が目に留まり、早速、トニーと共に店に入る。

 

しかし、シャーリーが試着室に入ろうとすると、購入してからだと店主に言われ、断られる。

「分かった」と笑顔で答え、買わずに店を出るシャーリー。

 

また、一人で外出してバーに入ったことで、白人男性のリンチに遭い、それを火消したトニーの役割が、いよいよ増しいていく。

 

その夜、再び警察から呼び出されたトニーが駆け付けると、YMCA(キリスト教青年会)の一室で裸にされたシャーリーと、見知らぬ白人男性が捕らわれていた。

 

警官をうまく買収して、シャーリーを助け出したが、逆に文句を言われるトニー。

 

「警官にあんなことをするなんて」

「スケジュールを守ることが、俺の仕事だからね」

「買収した」

「仕方なかった。バレたら永久失職だろ?」

「いいか、私を気遣う、そんなフリはよせ。演奏会に穴が開くと、給料が心配なんだろ?」

「俺が自分の懐しか考えない男と思うのか?恩知らずめ!俺が助けたんだぞ。ちょっとは感謝しろ。独りで出歩きやがって!」

「今夜は知られたくなかった」

 

シャーリーは同税愛者だったのだ。

 

この辺りから、トニーとシャーリーの関係構造が変化していく。

 

以下、人生論的映画評論・続: グリーンブック('18)   ピーター・ファレリー  より