“憎しみに居場所なし” 異彩を放つ映画「ブラック・クランズマン」('18) ―― そのシャープな切れ味 スパイク・リー

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1  潜入捜査官

 

 

 

公民権運動が終焉した後の1970年代、コロラド・スプリングスの警察に採用された初の黒人青年・ロンが、潜入捜査官として最初に与えられた仕事は、ブラック・パンサーの元最高幹部・カーマイケル(「クワメ・トゥーレ」というアフリカ名に改名。思想的対立で、のちに離党)の演説会での反応をモニターすることだった。

 

「我々は黒人、我々は美しい!」

「団結し、基盤を作るんだ。人種差別と闘い、迫害者と闘うために。この国に暮らす黒人の大多数は、牢獄のような環境で、迫害と現状に耐えている…」

「銃を取り、武装するんだ。必ず革命は起きる」

「ブラック・パワー」

 

ロンがカーマイケルの演説で聞いた言葉である。

 

黒人学生自治会リーダーのパトリスと出会い、意気投合するロン。

 

「でも革命など起こしませんよ」

 

署長の質問に対し、カーマイケルに危険性がないと報告するロン。

 

情報部に転属され、新聞を読んでいたロンは、KKK(クー・クラックス・クラン)の広告の電話番号に電話し、白人のふりをして、黒人やユダヤ人を侮蔑して、コロラド・スプリングス支部長のウォルターに取り入る。

 

金曜日に会う約束をしたロンは、署長に白人刑事を、もう一人のロンに仕立てることを提案する。

 

「黒人のロンは電話。白人のロンが会う。2人でロンを演じるんです」

 

そして、その白人のロンとして、ユダヤ人の刑事フィリップが担当することになった。

 

バディームービーの誕生である。

 

フィリップはウォルターと会って意気投合するが、一人だけ、潜入を疑うフェリックスという男がいた。

 

その後フィリップは、フェリックスの家に行き、妻のコニーを紹介される。

 

フェリックスはウォルターの反対を押し切って、フィリップがユダヤ人かどうかを執拗にテストする。

 

ホロコーストを称賛するフィリップを信用せず、銃を突きつけ、割礼を確認しようとしたのだ。

 

車で待ち受けしていたロンが無線でその状況を知り、フェリックスの家に石を投げ込み、混乱させて逃げていく。

 

それを追い駆けるフェリックスが、逃げる車に向かって銃を撃つが、その銃をフィリップが取り上げ、自ら銃撃するのだ。

 

「逃げるがいい!黒いヤリ投げニガー!」

 

“祖国を愛さずば去れ”

 

フェリックスの家の前にあった立て看板である。  

 

「発砲?冗談じゃないぞ!危険が大ありだ…署長が聞いたら、作戦は即刻中止」

 

上司に怒鳴られた“二人のロン”が、話し合う。

 

「お前は聖戦と思ってる。俺には、ただの仕事。無関係だ」

「関係ある。ユダヤ人だから。お前、WASP(ワスプ/ホワイト・アングロ・サクソンプロテスタント)のつもりでいるだろ。白人、アングロサクソンプロテスタント。色の薄い黒人も、白人のつもりでいる」 

 

フィリップをイベントに積極的に参加させようと考えるロンは、KKK最高幹部のデュークに電話をかけ、会員証の送付を急いでもらうように依願した。

 

フィリップはフェリックスらと共に、ニガー(黒人を指す蔑称)を標的にして銃の練習に励む。

 

彼らが去った後、ロンが撃ち抜かれたニガーの標的を見て、静かな怒りを燃やす。

 

フェリックスは、フィリップの申告する住所を電話帳で調べて訪ねると、そこに二人の黒人、ロンとパトリスがいたことを確認し、フィリップを仲間たちの前で問い詰めていくが、フィリップスは上手く言い逃れていく。

 

コロラド・スプリングスでの過激派黒人たちの集会を襲撃する計画を立てたフェリックスは、年来の「ニガー殺し」とユダヤ人潰しを実現しようと、フィリップを自宅に呼んだ。

 

その第一のターゲットはパトリスだった。

 

ロンはパトリスに集会に出るなと言うが反駁(はんばく)され、自身の立場を告白する。

 

「俺は潜入刑事だ。クランを捜査している」

 

パトリスはロンを受け入れず、訣別するに至る。

 

デモは中止となり、フェリックスの襲撃計画も同時に中止となった。

 

ロンは署長から、コロラド・スプリングスにやって来る、穏健なデュークの警護を命じられた。

 

KKKの儀式が始まった。

 

フィリップはデュークに清められ、正式な会員として認められる。

 

KKKを神聖視する映画として、グリフィスの「国民の創生」を会員らが見て、気勢を上げるのだ。

 

一方、黒人たちの集会では、黒人少年が大勢の白人に惨殺された話をするロートルの黒人活動家の話を聞きながら、「ブラックパワー!」を連呼して、同じく気勢を上げる。

 

その中にパトリスもいる。

 

集会も終わりに近づき、「アメリカ・ファースト」とデュークが唱え、会員たち全員で唱和する。

 

それを後方で見守るロン。

 

その集会後、ウォールターがデュークに挨拶をしていると、フェリックスとコニー夫妻が割り込んで、夕食に誘うが断られる。

 

その直後、フィリップに捕まった男によって、フィリップが刑事であるとフェリックスに伝わる。

 

ここで、フェリックスはデュークを警護する男がロンであり、その名をフィリップが語っていると突き止める。

 

一方、予め予定していた黒人集会の爆破テロを実行するために、コニーが会食の場を抜け出していく。

 

異変に気づいたロンは、直ちに見張りの警察に通報し、コニーは計画を変更することになった。

 

コニーはパトリスの家に爆弾を仕掛けに行くが上手くいかず、パトリスの車に置いた。

 

そこにロンが車で駆けつけ、コニーを抑えつけるが、逆に白人警官たちに銃を向けられ、暴行を受ける。

 

更に、フェリックスたちが車で到着し、パトリスの車の横に止めた。

 

家から出て、ロンの名を叫ぶパトリスに対し、ロンは「逃げろ!」と呼びかける。

 

その瞬間、フェリックスは爆弾のスイッチを入れ、パトリスの車は激しく炸裂し、横に止めていたフェリックスの車も激しく炎上してしまう。

 

そこに、集会から抜け出してきたフィリップが、ロンが潜入捜査官であることを伝え、警官の暴行から救い出す。

 

パトリスの命は守られ、ロンと和解することになった。

 

 

人生論的映画評論・続: “憎しみに居場所なし” 異彩を放つ映画「ブラック・クランズマン」('18) ―― そのシャープな切れ味 スパイク・リー

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