1 日本と英国で期せずして出来したプリンセスの愛の行方
2017年12月現在、26歳の眞子さまは、現在、皇族女子の称号・「内親王」では最年長の皇族であるが、周知のように、国際基督教大時代の同級生・小室圭さんと共に、赤坂御用地(あかさかごようち)内の赤坂東邸で婚約内定会見に臨んだ。
不在の時こそ、恋の炎は想像を掻き立て、言いようがない感情が胸に押し寄せるてきて、その熱を増していく。
「長く遠く離れておりましたが、その間も、しばしば連絡を取りながら、交際を深めてまいりました。帰国後もお互いの気持ちを確認しあいながら、プロポーズに至りました。2013年12月に、私から宮さまの方に、『将来、結婚しましょう』と申し上げました。場所は都内で食事の後、二人で歩いていた時だったと記憶しております」
逞しく、包容力溢れる印象を残す青年と、心優しく、笑みの溢れる印象を残す「内親王」との愛が成就し、二人の人生は、近未来に、今までと風景の異なる世界に踏み込んでいくことになる。
もう、若き夫婦の以心伝心の様子が垣間見える空気感が、存分に弾けているようだった。
恋の炎を燃やし尽くした二人は、「越えられない距離」が幻想であった事実を検証したのである。
しかし、問題が残る。
2017年6月に成立した、「譲位特例法」(天皇の退位等に関する皇室典範特例法)の付帯決議には、皇族数を確保し、皇室維持のために、女性皇族が結婚後も皇室に留まるという「女性宮家」創設の検討が明記されたのである。
それ故に、二人は結婚式までの間に、多くの皇室行事が課せられる。
まず、「納采(のうさい)の儀」。
そして、「皇室経済会議」が待っている。
次に、眞子さまが歴代天皇を祀(まつ)る「宮中三殿」に拝礼する「賢所皇霊殿神殿に謁するの儀」(かしこどころこうれいでんしんでんにえっするのぎ)を経て、眞子さまが両陛下に感謝の言葉を述べる「朝見の儀」(ちょうけんのぎ)があり、結婚式当日、小室さんの使者が訪れ、眞子さまを迎える「入第の儀」(じゅだいのぎ)を迎えるに至る。
以上、これらの皇室行事のフィナーレを飾るのは、言うまでもなく、皇族の方々が出席する結婚式である。
かくて、「越えられない距離」にある男女の「自由の使い方」を巧みに駆使し、「降嫁」した眞子さまは、黒田清子さんと同様に、警衛警護の所管が「皇宮警察本部」から警視庁に変わるものの、選挙権・居住と移動・言論・職業選択の自由がない皇族から解放され、戸籍が生まれて、晴れて一般人となる。
伝え聞くところによると、小室さんは20代のパラリーガル(弁護士のアシスタント)のため、年収が300万程度と言われる。
その小室さんの生活費が限定されているので、皇室経済法が定める満額を受け取っても、住居費などに使用されると言われる非課税の一時金に、一切の生活費を充当することができないだろうから、皇籍離脱後の二人が営む「普通の生活」を継続していくには、まさに自助努力で突き抜けていく他にないのである。
そんな印象を抱かせてくれる婚約内定会見だった。
「簡単なことではない。でも、彼女は私を選び、私は彼女を選んだ。二人で一緒に乗り越えなければならないし、彼女にはそれができると思う。真っ白な王室に一滴のコーヒーが混ざったからといって、何の違いも生まれない。王室は王室であり、それが象徴するものも変わらない」
ヘンリー王子は「歪んだ見方」を否定し、更に言い切った。
「何が新しいのか、私には分かりません。私にとっては新しいメンバーが家族に加わったということです。歪んだ見方より、正しい感覚で若い世代や他の人たちが世界を見ることができるよう勇気づけていくことこそ、ロイヤル・ファミリー全員が望んでいることです」
今度は、自身の経歴を、連日のようにメディアに取り上げられ、「母親はスラム出身」などと揶揄(やゆ)・中傷されたことについて、メーガン・マークルさんの言葉。
「当然、落胆させるもので、今の時代に、そのようなことをいうのは差別的だ。しかし私は自分であること、自分の出自に誇りを持っています。すべての雑音を取り除いた時、二人で一緒にいることをエンジョイするのは簡単だと悟りました」
凛として言い放った二人の言辞は頼もしいし、応援する気持ちも強い。
しかし、黒人が僅か3%しかいない英国社会において、その現実は相当に厳しいようだ。
英国の著名な学者によれば、メーガン・マークルさんは王室のアドバイザーから、「バイレイシャル(異人種間、特に白人と黒人子供)」であることを隠すよう言われる可能性が高く、英国の根強い人種差別を改善させることにはならないと断言する。
「黒人のプリンセスは受け入れられないだろう。マークルが受け入れられるには、白人として振る舞うしかない。(黒人プリンセスの誕生を)祝っている人がいるとすれば、世間知らずというものだ。失望を味わうことになる」
これは、バーミンガム・シティ大学のケヒンデ・アンドリュース社会学准教授の言葉。
ヨーロッパで初めて、黒人研究課程を設立した准教授の言葉だけに無視できないだろう。
まさに、「越えられない距離」にある男女の真剣な愛が、それを受け入れた英国王室の覚悟が問われているのだ。
既に、チャールズ皇太子、ウィリアム王子、キャサリン妃などロイヤルファミリーと対面しているメーガン・マークルさんは、バルモラル城(スコットランドにあるエリザベス女王の避暑地)で休暇を過ごしていたエリザベス女王との対面を果たし、受け入れられたと言われる。
来年の春に予定される結婚式によって、「バイレイシャル」への偏見・差別が不文律になっている英国社会の土手っ腹に風穴をあけ、その中枢に、新たな「文化」を持ち込む事態の当事者二人の覚悟も問われているのである。
一方、でき得る限り公務の継続を求められていながらも、「越えられない距離」を突き抜けていった民間青年と「内親王」の愛は、「自由の使い方」を巧みに駆使して、ソフトランディングする印象が強いが、ヘンリー王子とメーガン・マークルさんのケースは、立ち塞がる障壁があまりに大き過ぎる印象を拭えないからである。
「私は黒人半分、白人半分です。二分法でははっきりしなくなります。グレーゾーンです。子供の頃、学校の先生が私に白人のチェックボックスに印をつけるよう言ったことがあります。非常に困りました。家に帰ると父が『同じことが起きたら、次は自分自身でチェックボックスを書き加えなさい』と教えてくれました。私は強く、自信に満ちた混血の女性であることを誇りにしています」
何より、二人が婚約を発表できたのはエリザベス女王が承認したからである。
この事実は重いだろう。
―― 日本と英国で期せずして出来したプリンセスの恋と愛の行方は、それが開く差別的風景の彩(いろど)りが全く異なるが、私たちが単純に考えるほど、「越えられない距離」を突き抜けていくことが決して容易でない現実を示唆している。
だからこそ、応援したいのだ。
時代の風景 「自由の使い方」を間違えなかった、「越えられない距離」にある男と女 より抜粋http://zilgg.blogspot.jp/2017/12/blog-post_2.html