1 NYへの中絶の旅に打って出た二人の少女
高校の文化祭で、ギターの弾き語りの舞台に立つ17歳のオータム。
会場から、「メス犬!」とヤジが飛び、オータムの弾き語りが、一瞬、切れてしまうが、最後まで歌い切った。
オータムは、密かにクリニックでセルフチェックを受け、妊娠検査の結果が陽性だった事実を知らされ、動揺を隠せない。
既に、妊娠10週目に入っていると言われたのだ。
「中絶とは胎児を殺す暴力行為」
「プロライフ」(妊娠中絶禁止)のクリニックで見せられた動画である。
家に帰り、「“未成年の中絶 ペンシルベニア州”」で検索すると、「“中絶が行われるには、親の同意が必要である”」と書かれている。
オータムは、「“自分で行う堕胎”」と調べ、自ら中絶しようとビタミンCを大量に飲み、嗚咽を漏らしながら、繰り返しお腹を叩くのだ。
スーパーのレジのバイト中に、体調を崩してトイレで嘔吐するオータムを、同じレジのバイトをする従姉妹のスカイラ―が心配し、そこでオータムが妊娠している事実を聞かされる。
ここから、二人の少女の「中絶の旅」が開かれていく。
スカイラーはスーパーの売上金をくすね、それをオータムに渡す。
バスの時刻表を調べ、翌朝、長距離バスで、未成年でも堕胎が認められるニューヨークへ向かうオータムとスカイラー。
ニューヨークへ到着し、ネットで調べた「全米家族計画連盟」へ行き、改めて超音波検査をすると、妊娠18週目に入っていることが判明する。
「うちでは最後の生理から、12週目を過ぎたら、中絶できないのよ」
「どうすればいい?」
「別の施設を紹介するわ。明日の朝イチで診てくれる」
「今すぐはダメなの?」
「着く前に閉まる」
「待てない」
「無理を言わないで。明日なら必要な処置をしてくれる。分かった?」
了解するオータム。
【ここで言う「全米家族計画連盟」とは、Wikipediaによると、「プランド・ペアレントフッド」と呼称され、アメリカで女性の性と出産に関する健康と権利に関するサービスや啓蒙活動を行っている医療サービス非営利組織である。個人の権利に基づいた人工妊娠中絶手術、避妊薬処方、性病治療といったサービスを提供しながら、学術調査、性教育などを実施している。プロチョイス(妊娠中絶権利擁護)の推進団体である】
「“ママへ スカイラーの家に泊まる”」とメールするオータム。
駅のベンチから追い出された二人は、地下鉄に乗るが酔っぱらいの男に絡まれそうになり、途中下車してゲームセンターで夜を明かす。
翌朝、「全米家族計画連盟」から紹介された施設へ行くと、その周囲には中絶反対デモの人たちが溢れていた。
医療費の相談係から説明を受けるオータムは、保険証は使えるが、親元に請求書が届くため、自費で払うことにした。
足りない分は民間基金から出ると言われる。
次に、カウンセラーのケリーと面談することになった。
一日で済ませたいオータムだったが、「拡張器で子宮頸管(けいかん・子宮の下部/画像)を一晩かけて広げる」ため、2日かかると言われ、改めて中絶の決意を確認される。
「前処置だけして、明日の手術をやめたら、重大な問題が生じる場合が」
宿泊場所と所持金の心配をするケリーは、ボランティアを紹介すると言うが、オータムは「自分で何とかする」と断る。
このケリーとの丁寧なカウンセリングは、本作の肝なので後述する。
まもなく、医療スタッフの前処置(ぜんしょち)が行われた。
【中絶手術の前処置とは、子宮頸管内にラミナリア等の棒状の子宮頸管拡張材を挿入すること】
予約金を払い、所持金が足りなくなった二人だが、スカイラーが母親に無心しようとすると、オータムはそれを制止する。
困ったスカイラーは、行きのバスで知り合った若者をメールで呼び出し、ファーストフード店に3人で入ったあと、ボウリング場で遊ぶ。
スカイラーは体調の悪いオータムを心配し、若者の相手をしながら、お金を借りるタイミングを見計らっている。
オータムは苦しくなり、トイレに行くと、不正出血していた。
そこで母親に電話をかけ、声を聞くが、何も話せない。
話しようがないのだ。
帰り際、スカイラーは若者にお金を貸して欲しいと頼み、オータムを残し、若者はスカイラーを伴いATMに行く。
待っていたオータムはスカイラーが心配になり、重いトランクを転がして、NYの町を探して歩くのである。
手術前なのに、彼女の疲労がピークに達しつつあった。
元の場所に戻ると、スカイラーは柱の陰で、件(くだん)の若者にキスされていた。
裏側から手を伸ばし、スカイラーの手を握るオータム。
しっかりと、小指を繋ぐ二人。
二人の少女の繋がりの深さを象徴するカットだった。
若者から金を借りることはできたが、地下鉄のベンチで野宿するしかなかった。
「金欠の旅」に打って出た少女たちの定めである。
翌日、ケリーの立会いの下、麻酔をして、中絶手術を受けるオータム。
無事終了し、スカイラーと食事をするオータム。
「どうだった?」
「どうって?」
「どんな感じだった?」
「うまく言えない」
「親切だった?」
「すごく」
「痛かった?」
「不快なだけ」
「今の気分は?」
「疲れた」
安堵したオータムとスカイラーの表情に、笑みが戻っていた。
そして、地下鉄を寝床にして、2泊3日に及ぶ、NYへの中絶の旅を終えた二人は、長距離バスに乗り込んだ。
故郷で待つだろう事態が決して安寧に満ちたものではないことを印象づけて、今、困難な旅を終え、二人の少女は穏やかな眠りに就く。
人生論的映画評論・続: エンタメ性を丸ごと捨てた、直球勝負の社会派の秀作 映画「17歳の瞳に映る世界」('20) ―― その精緻な構成力 エリザ・ヒットマン より