1 「俺は命懸けでアカを捕まえた。俺がいなきゃ、この国は北に侵略されてた」
“大韓ニュース 大統領の動静”
「チョン・ドゥファン大統領は、北朝鮮スパイの検挙者を労(ねぎら)いました。また“急激に左傾化した一部の分子が反体制は勢力とつながることで、暴力により民主主義を脅かしている”と憂慮。事態を深刻に受け止めています」
1987年1月14日、南営洞(ナミョンドン)対共分室に内科医のオ・ヨンサンが呼ばれ、取り調べ中に拷問死した若者の蘇生を試みるが、もはや手遅れだった。
直ちに治安本部対共捜査所長のパク・チョウォン(脱北者。以下、パク所長)に報告されると、パク所長は死亡した若者の火葬を命じた。
【南営洞はソウル市にあった拷問施設として悪名高かった】
その後、パク所長は料亭で大統領の最側近の安全企画部チャン部長と会い、指名手配中のキム・ジョンナムが関わるスパイ事件について報告する。
「8.15共同宣言文を書いた男です」
ソウル地検の公安部長のチェ・ファン検事(以下、チェ検事)の元に、パク所長の部下が拷問死した若者の「火葬同意書」を持って来た。
「“パク・ジョンチョル、ソウル大”22歳が心臓麻痺?」
「今夜中に火葬を」
遺族に合わせることなく、何とか懐柔してサインを求める公安を不信に思ったチェ刑事は、「解剖で死因を解明してから火葬にするのが法律だ」と突っぱねる。
大統領府からの指示だと、上司からも圧力がかかるが、それに切れたチェ検事は、“保存命令”にサインをして、部下に渡す。
「遺体に触れたら、公務執行妨害だぞ」
チェ検事は、パク所長から圧力がかかる検事長に具申するのだ。
「状況から見て、間違いなく拷問致死です」
「だからこそだ。外に漏れたら、お前も私もタダじゃ…収拾がつかん。ダメだ」
「だからこそ、きっちりやるんです」
中央日報の記者がネタを求めてチェ検事と昵懇(じっこん)の大検察庁公安4課のイ検事を訪れ、ソウル大生の拷問死事件の情報を引き出す。
「南営洞の奴らは、やりすぎだ」
記者はさっそく本部に報告する。
ジョンチョルの死亡を知らされていない遺族が、警察の霊安室に案内されて号泣する。
ソウル地検の出入りの記者室に、“取り調べ中の大学生、ショック死”の見出しで事件の記事が載った中央日報が配達され、記者たちはどよめき、室内に電話が鳴り響いた。
その頃、“報道指針を破った”と、軍人たちが中央日報に押し寄せて暴れるという切迫した状況下にあって、スクープした記者は上司から「旅館に隠れてろ。捕まったら殺されるぞ」と指示され、慌てて逃げていった。
一方、治安本部治安総監のカン本部長は、パク所長らと対策会議で協議する。
「閣下が新聞を床に叩きつけた。我々は崖っぷちだ」
パク所長が作成した決定事項を基に、カン本部長が記者会見を開き、拷問の事実を否定した。
記者に死因を質問されると、口ごもるカン本部長に替わり、パク所長が「学生はひどく怯(おび)えており、捜査官が机を叩くと、“ウッ”と、倒れたそうです」と涼しい顔をして返答する。
死亡確認をした医師の名前を聞き出した記者たちは、一斉に勤務する病医院へ向かった。
「しまった。まずいよな」と言うカン本部長を尻目に、パク所長は病院へ電話を入れる。
大学病院に押し寄せた記者たちに、心臓麻痺だったかどうかを質問されたユンサン医師は、「それは解剖しないと分かりません」と答えたが、更に詳しく説明を求められると、しどろもどろで、記者たちも困惑する。
病院にチェ検事がやって来て、解剖を担当する科捜研に「原則通りに」と伝え、立会人となる部下の検事には「小さな傷も残らず記録しろ」と指示する。
そこにパク所長の部下たちが待ち構え、解剖を妨害し、もう一方では、遺族が解剖前に会わせて欲しいと駆け付けた遺族を、警官が強引に引き摺り戻すのだ。
チェ検事は「クズどもめ」と吐き捨て、パクに電話をかけ挑発する。
「漢陽大学病院で、お宅の部下が公務執行妨害を」
「もう上で話がついてる。解剖は中止しろ」
「あんたは俺の上司か?」
「私は対共所長だ」
「対共なら、法を破っていいのか?捜査の指揮権が誰にあるか、規則を読み直すことだ。それから北なまりは直せ。キム・イルソンかよ」
検察に乗り込んだパク所長は、チェ検事が手渡した「解剖指示書」を破り捨てる。
チェ検事は、ニューズウィークの雑誌を掲げ、縁者に面白いネタを求める記者がいると言い、「五輪に支障が出たら、閣下は困るはず」と脅す。
「好きに咬みつけ。どうせ何も変わらん」と去っていくパク所長に、チェ検事は声をかける。
「解剖しますよ!」
「お前は終わりだ!駄犬らしくクソでも食ってろ!」
まもなく、遺族の叔父の立会いの元、ジョンチョルの司法解剖が行われた。
監視の目を避け、トイレで待ち続けた東亜日報のサンサム記者が、ヨンサン医師が入って来たところで、見たままの証言を聞き出す。
「床が水浸しでした。浴槽があった。肺からは水泡音も」
司法解剖の結果が出た。
記者たちが集まり、騒然とする病院の玄関前で、公安の車に無理やり押し込められた叔父が叫んだ。
「警察が殺したんです!」
東亜日報では、キャップの指示で“拷問根絶キャンペーン”を展開することになった。
「取材班を作り、誰がなぜ殺したのか調べろ…真実を書け!全力で突撃しろ!」
解剖を担当した博士が、カン本部長を訪ね、結果を報告する。
「頸部圧迫による窒息死です。水責め中に、浴槽に首が当たり…」
「黙れ!拷問致死だと言えば、世間は騒ぎ、我々は終わる…火葬にする。どうせ分からん。解剖結果報告書に4文字だけ書けばいい…」
カネを渡し懐柔しようするが、博士は断って立ち上がる。
カン本部長は、結局、死因を「心臓麻痺」として記者会見に臨む。
「暴力行為は一切なかったと判断しました」
ジョンチョルは火葬され、公安は厳戒態勢で火葬場に押し寄せた記者たちの目をくらますが、東亜日報のサンサム記者が食らいついていた。
雪が舞う川岸から、ジョンチョルの遺灰を川に撒く遺族たち。
「父さんは、かける言葉がないよ。ジョンチョル」
【ネットで検索したら、韓国の火葬は49%で、火葬と土葬の比率はおよそ半分であることから、ジョンチョルの火葬が、明らかに証拠となる遺体の隠滅であったことが判然とする】
約束されたかのように、チェ検事が解雇され、私物の整理をしていると、サンサム記者が突撃して来た。
解剖の結果について問い質すと、「自分で調べるこった」と言い残して、車で去って行くチェ検事だったが、事件に関する資料を駐車場に残して行った。
その箱には、死亡鑑定書のファイルが入っており、早速、それが東亜日報のスクープ記事となる。
一面トップに載った、“水責めによる窒息死”というスクープ記事を読んだパク所長。
かくて、治安本部・新基地堂分室に車で乗り付けた拷問死事件に関与した二人が、いきなり逮捕される。
「お前らは拷問致死罪で逮捕された。これより警察身分を剥奪。犯罪者だ」と局長(パク所長の上司)。
早速、パク所長がカン本部長を訪れ、抗議する。
「仕方ないだろ、大統領府の命令だ」
パク所長らは、新基地堂分室に乗り込むと、逮捕された捜査班長のハンギョンが拷問を受けているところだった。
激昂したパク所長は、上司である局長を別室に連れ込み殴り飛ばすのだ。
「俺と同じ警察面をするな。貴様らが賄賂で私腹を肥やす間も、俺は命懸けでアカを捕まえた。俺がいなきゃ、この国は北に侵略されてた」
直後、パク所長はハンギョンに語りかける。
「お前は愛国者だ。胸を張って生きろ」
「拷問致死罪は最低でも10年です」
「過失致死に変えて執行猶予に」
「家族が5人います」
「俺が責任をもつ」
「心得ました」
永登浦(ヨンドゥンポ/ソウル特別市南西部)刑務所のハン・ビョンヨン看守(以下、ビョンヨン)が、「5.3仁川事態」で逮捕され収監中の元東亜日報記者のイ・ブヨンに雑誌を渡し、所内の告発文を書き込んだ雑誌と交換して受け取る。
【「5.3仁川事態」(1986年5月3日)とは、聯合ニュースによると、憲法改正を引き金に民主化を求める大規模デモのこと。詳細はウィキに記載】
姉の家で暮らすビョンヨンは、姪のヨニに頼み込み、検問所を潜り抜け、民主化運動家ハム・セウン神父に受け取った雑誌を届けてもらうことになった。
潜伏しているスパイ事件で指名手配中のキム・ジョンナムは、セウン神父の元に身を寄せている。
「我々に残された武器は、真実だけです。その真実が現政権を倒すのです」
そう言い切るジョンナムに、ヨニは雑誌を手渡した。
一方、永登浦のアンユ・ユ保安係長が、事件に関わって収監されている部下のジンギュを家族と面会させると、「こんなの理不尽だ!俺は足を押さえただけで、殺してない」と訴えていた。
ユ保安係長が面会内容を記録していると、いきなりパク所長の部下たちが面会室に入り込み、ジンギュを連れ去り、家族も看守らに引き離された。
「面会規則の順守を」と警告すると、部下は記録を破り捨て、「今度記録をつけたら刑務所事爆破するぞ」と脅す。
そして、故パク・ジョンチョルの49日に、学生たち主体の“国民追悼会”の集会が催され、抗議運動が開かれていく。
ヨニが友達と待ち合わせて合コンへ行こうとすると、抗議デモの学生らに機動隊が襲いかかった。
ヨニも催涙弾を浴び、機動隊に暴行され追いかけられるが、デモ参加者の延世大学生イ・ハニョル(以下、ハニョル)が助け、一緒に走り、運動靴店に逃げ込むことで難を逃れる。
このハニョルとの出会いによって、体制内にあって、民主化運動家を支援する叔父ビョンヨンの伝達に不熱心なヨニの心情が変化し、少しずつ立ち位置が遷移していくことになる。
人生論的映画評論・続 1987、ある戦いの真実('17) 公安⇔反体制的学生・市民という激発的衝突の向こうに チャン・ジュナン より