キサラギ('07)   エンタメ純度満点の密室劇

 

台詞を正確に起こしてみて納得尽くのワンシチュエーション映画の秀作。

 

伏線の全てが回収され、驚かされた。

 

以下、かなり長くなるが、5人の男たちの艱難(かんなん)なジグソーパズルの醍醐味をシリアス含みで描き切った本篇の要旨をまとめた投稿文です。

 

 

1  「そもそも、この会を提案したのも、この男を誘(おび)き出すためでした」

 

 

 

2007年2月4日、『如月ミキ一周忌追悼会』に集まった、アイドル・如月ミキのファンサイトに参加する5人の男たち。

 

サイトの管理人であり、この追悼会の主催者である家元は、借りたビルの空き部屋に、自身の“如月ミキパーフェクトコレクション”を展示し、初めて会う参加者が訪れるのを待っていた。

 

最初に、福島で農業を営む安男という、本名をハンドルネームとする男がやって来た。

 

お菓子作りが趣味の安男は、作ってきたアップルパイをコンビニに忘れたと言って部屋を出て行った。

 

次にスネークという雑貨屋に勤める軽いノリの男が来て、続いて入って来た、一周忌企画者のオダ・ユージ(以下、オダ)が家元に深々とお辞儀をし、差し入れの日本酒を手渡す。

 

ハンドルネームを突っ込まれたオダは、たまたまテレビで目について付けたもので、同姓同名でも憧れの人でもないと弁明する。

 

そのオダは、「ラフな感じで楽しくやろう」と普段着姿の家元に対して、追悼会に相応しくない、礼節がないと批判する。

 

慌てた家元は、派手な飾りつけを片付け、喪服に着替えに出て行った。

 

そこに、部屋の陰から怪しげな中年男が現れ、最初は大家さんと間違われたが、その男が5人目の参加者であるいちご娘だった。

 

安男と喪服に着替えた家元が戻り、同じく喪服に着替えたいちご娘も加わって、追悼会がスタートした。

 

まずは家元が挨拶する。

 

「本日は、若くして残念ながらこの世を去った、我らがアイドル如月ミキの一周忌追悼会にお越し頂き、ありがとうございます。今まで文字のやり取りしかしていなかった皆さんに、お会いできて本当に嬉しいです。わたくし、如月ミキ愛好家、家元でございます。普段はしがない公務員ですが、如月ミキに関することなら、誰よりも詳しいと自負しております…」

 

続いて自己紹介が始まり、そこでオダは本名を名乗ろうとするが、皆ハンドルネームを使っているからと制止される。

 

カチューシャをしておどおどとしているいちご娘は、「無職」と一言。

 

自分一人が喪服でないことを気にし、黙々とアップルパイを食べていた安男は、このままでは盛り上がれないと言うや、喪服を買いにまた出て行った。

 

その間、家元の如月ミキに関するレアなグラビアや記事のコレクションを見て、参加者たちは大いに興奮する。

 

更に極めつけと称して、家元は如月ミキ直筆の手紙を見せた。

 

「僕は3年間、毎週必ず一通は送っています。計200通近く書いたことになります」

 

本物かどうかを疑ういちご娘に対し、家元は漢字が異常に少なく、誤字脱字が異常に多いのは、事務所がチェックしていない証拠だと反論する。

 

「“家元さんのお手紙にいつも励まされています。落ちこんで辛いことがあっても、家元さんのお手紙を見ると、お仕事ガンバロー~!と思るんです。ミキの命より大事は宝物です…”」

 

オダがその手紙を読み上げる。

 

コピーを欲しいというスネークは、難色する家元に生写真とのトレードを持ちかけた。

 

更に大磯ロングビーチのイベントの写真に写っている如月ミキのマネージャーをスネークが嫌な奴で許せないと指差し、「デブッチャー」と罵ると、いちご娘も握手会で突き飛ばされたと言う。

 

「まあ、本人も仕事でしょう」と口を挟んだオダが、続いて皆に問いかける。

 

「皆さんは、見てみたかったですか?ヘアヌード写真集ですよ。出るって噂、流れたでしょう」

「見たくないに決まってんだろ。ヘアヌードなんて。遅れてきた清純派だ」とスネーク。

「脱いだらダメだよ、絶対に」といちご娘。

 

家元もミキの最大の魅力は目であり、脱ぐ必要はないと答える。

 

歌も下手でおっちょこちょいで、走って倒れても笑っていたミキを、「いつだって笑ってるところがいいんだ…」とスネークがしみじみ言うと、いちご娘が泣き出した。

 

すると、オダがまた冷静な口調で皆に訊ねた。

 

「去年の今日なんですね。なぜ、自殺なんかしたんでしょう。皆さん、どう思います?如月ミキは、なぜ自殺を…」

「知るかよ」とスネーク。

「仕事が思うように行かず、悩んでいたと」と家元。

「新聞には書いていてありました。そんな理由で納得できますか?これが自殺をするような子の笑顔ですか」とオダ。

「そりゃ、納得なんかできねえけどさ!」とスネーク。

 

なおも、死に方もおかしいと話を続けるオダに対し、いちご娘は「やめてくれ!」と耳を塞ぐ。

 

「この話、止めませんか?」と家元。

「なぜです?」

「一周忌です。楽しくやりたいんです」

「一周忌だからこそ、話すべきです…この話題に触れずにいくんですか?皆さんだって、気になってるはずでしょう。彼女がなぜ死んだのか…自殺じゃないとしたら…」

 

そして、オダはこの一年間、現場に何度も足を運び、関係者に話を聞き、事件について調べてきた結論について語る。

 

「如月ミキは自殺なんかしてない。殺されたんです」

「誰に?誰にだよ」とスネーク。

「警察の見解は誤りだということですか?」と家元。

 

オダは警察への怒りを禁じ得ないと言い、手帳を取り出して持論を展開し始める。

 

そこへ、喪服を買って着替えた安男が嬉々として帰って来たが、雰囲気が一変していることに戸惑う。

 

「まず、死に方が不可解です」とオダ。

「丸焼けだもんな」とスネーク。

 

家元は新聞記事を取り出し、死ぬ直前にマネージャーの留守録に入っていた言葉を読み上げる。

 

「“やっぱりダメみたい。私も疲れた。いろいろありがとう。じゃあね”と遺言を残した後、部屋中に油を撒き、ライターにて着火。一酸化中毒および全身やけどにて死亡…」

 

オダは部屋は全焼し、上の階も燃え、他に死傷者が出なかったものの大惨事になりかねない、そんな人様に迷惑をかけるような死に方をミキがするとは思えないと主張する。

 

「何者かが彼女を殺し、油をまいて放火した…」

 

それに対し、家元は「精神的に錯乱状態にあり、冷静な判断を欠いた」という警察の見解を支持し、マネージャーへの遺言の声紋鑑定も一致すると反論したが、オダは犯人がミキにしゃべらせたのではないかと推理する。

 

「皆さんはご存じないでしょう。如月ミキが、悪質なストーカーにあっていたことを」

 

緊張が走る中、腐った匂いのするアップルパイを食べ続けていた安男が吐き出しそうになり、部屋を出てトイレに駆け込んでいく。

 

オダは話を続け、自宅付近で怪しい男が何度も目撃されており、事件一週間前には寝室の窓から何者かが侵入した形跡があるが、金品は盗まれず、溜まっていた食器が洗われ、ベッドの掛布団が畳まれていたと言い放つのだ。

 

事件当夜も寝室の窓は開いていたとの消防隊員の証言もあった。

 

「異常者が手の届かない相手を殺害することによって、自分のものにしようとする例はいくらでもあります…或いは、ヘアヌード写真集の噂が犯行の引き金かも知れない」

 

オダは何度も警察に再捜査を依頼したが取り合ってくれなかったと怒りを滲ませると、家元はその情報をどこから得たかを問い、それがマネージャーからだと分かると、「タレントに自殺されたマネージャーの責任逃れでしょう」とマネージャーの捏造(ねつぞう)の可能性を指摘する。

 

「警察には通報していないのはなぜです?」と家元。

「しています」

「していません…警察にはそんな記録、一切ありません」と家元。

「何であなたがそんなこと言い切れるんですか?」

 

家元は内ポケットから出した金色のバッチを翳(かざ)して見せる。

 

「警視庁総務部 情報資料管理課勤務です…しがない公務員ですよ。父は警視総監ですけど…」

 

家元もまた初めは自殺を疑い、ミキに関するあらゆる調書・資料に目を通したが、他殺の可能性を示す要素は一切見つからなかったと答えた。

 

しかしオダは、マネージャーが何度も警察に相談していたが、何一つ対策を講じなかった、その責任回避のために、ストーカ―被害に関する情報を全て処分したと主張するのだ。

 

「いわば如月ミキを殺したのは、あなた方警察なんだ!」

「…根拠のない憶測にすぎない」

 

二人の平行線の議論の中、それまで耳を塞いでいたいちご娘が、突然、「やめてくれ!」と叫ぶ。

 

「とても聞いてられない。警察だのストーカーだの、もう、うんざりだ!」と言って帰ろうとするいちご娘を阻むオダ。

 

「もう少し、いてくれませんか?」

 

それでも帰ろうとするいちご娘を、「逃がさねえよ」とオダは押し倒した。

 

「自供させます。犯人。つまり、ストーカー自身に」

「オダさん。滅多なこと言うもんじゃありませんよ」と家元。

 

しかし、オダに影響されたスネークまでもが、見た目の判断でいちご娘をストーカーと決めつけ、押さえつける。

 

「冷静になりましょうよ!」と家元がスネークを引き剥がしたところで、安男がトイレから戻って来た。

 

「なんか、状況が激変してる…」

 

いちご娘がストーカーで、家元が警察で隠蔽してたと説明された安男は、再びお腹が痛くなり、トイレに出て行った。

 

「そもそも、この会を提案したのも、この男を誘(おび)き出すためでした。以前から疑っていたものですから…」

 

オダは、いちご娘の書き込みで、ミキの影響でアロマキャンドルに嵌っているとあるが、2日前にストーカーが侵入しており、マネージャー以外知らないことをいちご娘が知っている、つまり、ミキの部屋でアロマキャンドルを見たはずだと確信的に言い切った。

 

他にも、きたきつねラッキーチャッピーのグッズを集めていると書き込みをし、それも誰も知り得ない情報だった。

 

どこかのインタビューを読んだと弁明するいちご娘の言い分は、全ての記事に目を通している家元によって否定されるが、家宅侵入したことを問われたいちご娘は、物的証拠がないと開き直る。

 

そこでオダは物的証拠として、マネージャーが聞いた家宅侵入された際の如月ミキの証言で、いくら探しても見つからなかった愛用のカチューシャを示した。

 

そこに指紋の幾つかが残っているかも知れないと言うと、慌てて頭のカチューシャを外してワイシャツで拭き取ろうとする。

 

嘘が露見したいちご娘は、ドアに向かって逃げようとするが、またもオダが阻止し、殴って倒してしまうのだ。

 

オダは警察には渡さず、ここで裁くと言って、隠し持っていたナイフを取り出した。

 

何とかオダからナイフを取り上げた家元は、いちご娘に正直に話すよう促す。

 

「僕はストーカーなんかじゃないよ!僕は、前の道から2階のミキちゃんの部屋を毎日見守っていただけだ!」

 

事件の一週間前、窓を開けっぱなしで出かけたのを見たいちご娘は、閉めてあげなければと思い、鉄柱をよじ登りベランダから部屋を覗くと、ベッドが乱れていたので、部屋に入り布団を畳み、食器を洗ってクローゼットの下着を畳んだと弁明する。

 

部屋にはアロマキャンドルラッキーチャッピーの食器があり、記念に何か欲しくてカチューシャを持って帰ったと言い、スネークと家元から部屋の中の様子を聞かれたが、いちご娘はそれだけだと答えた。

 

事件当日も外からミキの部屋を見守っていたが、そのまま帰ったといういちご娘の言い分を信じないオダが、激しく突き飛ばして倒す。

 

しかし、ミキが死んだ時刻には無銭飲食で捕まり留置所にいたといういちご娘の証言は、身分証をもとに、家元が警察に問い合わせて裏付けられた。

 

いちご娘が犯人ではないことが証明され、オダに謝罪を求めるが、オダは応じようとしなかった。

 

人生論的映画評論・続: キサラギ('07)   エンタメ純度満点の密室劇  佐藤祐市