1 「人生を無駄にした罪」によって裁かれる男の物語
この波乱万丈に満ちた、アンリ・シャリエールの実話をベースにした映画の中で、最も重要なメッセージは、以下の言葉に尽きるだろう。
「お前は、人間が犯し得る最も恐ろしい犯罪を犯したのだ。では、改めて起訴する。人生を無駄にした罪で」
この言葉の主は、背後に12人の判事を従えた一人の裁判長。
この「判決」を下されたのは、本作の主人公であるパピヨン。
裁判長が起訴するという表現は可笑しいが、これは、パピヨン自身の夢の中の出来事。
その辺りの事情を簡潔に説明しておこう。
パリの犯罪者仲間の間でも一目置かれる存在だったパピヨン(胸に彫られた蝶のタトゥーに由来)は、金庫破りを犯しただけに過ぎなかったが、「ポン引き」殺しの冤罪によって、フランス領ギアナ(南アメリカ北東部に位置)に流刑されるに至った。
この波乱万丈に満ちた、アンリ・シャリエールの実話をベースにした映画の中で、最も重要なメッセージは、以下の言葉に尽きるだろう。
「お前は、人間が犯し得る最も恐ろしい犯罪を犯したのだ。では、改めて起訴する。人生を無駄にした罪で」
この言葉の主は、背後に12人の判事を従えた一人の裁判長。
この「判決」を下されたのは、本作の主人公であるパピヨン。
裁判長が起訴するという表現は可笑しいが、これは、パピヨン自身の夢の中の出来事。
その辺りの事情を簡潔に説明しておこう。
パリの犯罪者仲間の間でも一目置かれる存在だったパピヨン(胸に彫られた蝶のタトゥーに由来)は、金庫破りを犯しただけに過ぎなかったが、「ポン引き」殺しの冤罪によって、フランス領ギアナ(南アメリカ北東部に位置)に流刑されるに至った。
そこで債券偽造のプロであるドガと知り合い、ギブ・アンド・テイクの関係を構築する。
サン・ローランの監獄に収監された二人は、看守の買収に失敗したことで、熱帯ジャングルの強制労働キャンプに放り込まれるが、劣悪な環境下の故に、囚人たちの犠牲が常態化されていた。(画像)
そんな状況下で、作業のしくじりによって看守に殴られるドガを庇ったパピヨンは、逆に看守を殴り倒したことで逃走し、銃弾を浴びせられた挙句、捕捉される始末。
逃走に失敗したパピヨンが放り込まれたサン・ジョセフ島の監獄は、生還率の低い恐るべき独房の閉鎖空間だった。
「ここは懲罰施設で、我々は、"加工係"だ。動物を食肉に加工するように、悪人を善人へと加工する。破壊によってだ。肉体や精神、頭脳も破壊する・・・希望など捨てろ」
サン・ジョセフ島の監獄に収容される際の所長の告知である。
サン・ローランの監獄に収監された二人は、看守の買収に失敗したことで、熱帯ジャングルの強制労働キャンプに放り込まれるが、劣悪な環境下の故に、囚人たちの犠牲が常態化されていた。(画像)
そんな状況下で、作業のしくじりによって看守に殴られるドガを庇ったパピヨンは、逆に看守を殴り倒したことで逃走し、銃弾を浴びせられた挙句、捕捉される始末。
逃走に失敗したパピヨンが放り込まれたサン・ジョセフ島の監獄は、生還率の低い恐るべき独房の閉鎖空間だった。
「ここは懲罰施設で、我々は、"加工係"だ。動物を食肉に加工するように、悪人を善人へと加工する。破壊によってだ。肉体や精神、頭脳も破壊する・・・希望など捨てろ」
サン・ジョセフ島の監獄に収容される際の所長の告知である。
その言葉通り、鉄格子の天井から24時間監視される独房の閉鎖空間は、コウモリ、ムカデ、ネズミ、ゴキブリが蝟集(いしゅう)し、「肉体や精神、頭脳も破壊する」恐怖に最隣接する最悪の衛生環境にあった。
このような状況下で、パピヨンは、由々しき夢を見た。
以下、そのシークエンスを再現してみる。
そこに、冒頭の重要なメッセージが含まれているからだ。
「罪状は知ってるな?」
砂漠の高みに立つ、12人の裁判官を引き連れた裁判長の居丈高な言葉が放たれた。
ケチな犯罪者だった娑婆世界のときの、白いスーツとハンティング帽を被ったパピヨンが、法官たちの方に向かって歩いていく。
「俺は無実だ。ポン引きを殺していない。無理やり有罪に仕立てたんだろ」
パピヨンは、自分の冤罪を声高に主張した。
「まさにその通り。お前の罪はポン引きの死と関係ないのだ」
これが、裁判長の答えだった。
「なら、俺の罪は何だ?」
ここで立ち止まったパピヨンは、なおも声高に詰め寄った。
このときの裁判長の反応こそ、冒頭の言葉である。
「お前は人間が犯し得る最も恐ろしい犯罪を犯したのだ。では改めて起訴する。人生を無駄にした罪で」
それを聞いたパピヨンは視線を下に落とし、「有罪だ」と呟いた。
「そして、刑罰は死刑とする」
「有罪だな」
その罪を受容するパピヨンが、砂漠の一画にあって、繰り返し洩らすのだ。
「有罪だ・・・認めるよ」
本作の中で最も重要なメッセージを含む一連のシークエンスが、こうして閉じていった。
このような状況下で、パピヨンは、由々しき夢を見た。
以下、そのシークエンスを再現してみる。
そこに、冒頭の重要なメッセージが含まれているからだ。
「罪状は知ってるな?」
砂漠の高みに立つ、12人の裁判官を引き連れた裁判長の居丈高な言葉が放たれた。
ケチな犯罪者だった娑婆世界のときの、白いスーツとハンティング帽を被ったパピヨンが、法官たちの方に向かって歩いていく。
「俺は無実だ。ポン引きを殺していない。無理やり有罪に仕立てたんだろ」
パピヨンは、自分の冤罪を声高に主張した。
「まさにその通り。お前の罪はポン引きの死と関係ないのだ」
これが、裁判長の答えだった。
「なら、俺の罪は何だ?」
ここで立ち止まったパピヨンは、なおも声高に詰め寄った。
このときの裁判長の反応こそ、冒頭の言葉である。
「お前は人間が犯し得る最も恐ろしい犯罪を犯したのだ。では改めて起訴する。人生を無駄にした罪で」
それを聞いたパピヨンは視線を下に落とし、「有罪だ」と呟いた。
「そして、刑罰は死刑とする」
「有罪だな」
その罪を受容するパピヨンが、砂漠の一画にあって、繰り返し洩らすのだ。
「有罪だ・・・認めるよ」
本作の中で最も重要なメッセージを含む一連のシークエンスが、こうして閉じていった。
「人生を無駄にした罪でお前を起訴する」
恐らく、このメッセージを伝えるための映画だった。
この映画は、「人生を無駄にした罪」によって裁かれる男の物語なのだ。
それが、私の率直な感懐である。
この映画は、「人生を無駄にした罪」によって裁かれる男の物語なのだ。
それが、私の率直な感懐である。
(人生論的映画評論/パピヨン('73) フランクリン・J・シャフナー <「人生を無駄にした罪」によって裁かれる男の物語> )より抜粋http://zilge.blogspot.jp/2010/11/73.html