ブレードランナー('82) リドリー・スコット <人間とヒューマノイドの鑑別テストを必要とする、大いなる滑稽さ>

イメージ 12  「廃棄処分」の後の、「睦みの世界」への投げ入れ


「21 世紀の初め、アメリカのタイレル社は人間そっくりのネクサス型ロボットを開発。それらはレプリカントと呼ばれた。特にネクサス6型レプリカントは、体力も敏捷さも人間に勝り、知力も、それを作った技術者に匹敵した。レプリカントは、地球外基地での奴隷労働や他の惑星の探検などに使われていたが、ある時、反乱を起こして、人間の敵に回った。地球に戻ったレプリカントを処分するために、ブレードランナー特捜班が組織された。ロサンゼルス 2019年11月」

このキャプションから開かれた映像の背景は、「強力わかもと」の大きな広告塔の看板が際立つ、夜のネオンの人工燈が照射するけばけばしい色彩感の中で、超高層ビルが林立し、其処彼処に酸性雨が降り注ぐ暗鬱なイメージの未来都市の存在であり、その異様な映像美は観る者に破滅的な臭気を放って止まないのだ。

人類の大半は宇宙に移住してしまたので、比較的良好な環境を保持する都市には、あらゆる言語を話す人々が居住することで、常に成員過多の人群れの臭気が漂っているのである。

ブレードランナーの仕事を嫌って退職したデッカードは、雑多な者たちが溢れかえる荒廃した都市の一画でうどんを食べていたが、権力機構の一翼を占有するガフを介して、彼の元の上司のブライアンに呼ばれ、スペースシャトルを奪って、乗員を皆殺しにして脱走した4名のレプリカントの廃棄処分を依頼されるに至った。

以下、ブライアンの説明。

「ネクサス6型、ロイ・バティ。戦闘用ロボットだ。首領らしい。ゾラも、殺人の訓練を受けている。美女で野獣。カワイ子ちゃんタイプのプリスは、宇宙基地の兵隊慰安用。感情以外は人間と変わらん。製造後、数年経てば感情も生じるらしい。面倒だから、安全装置を組み込んだ。4年の寿命だ」


 


以上の説明を聞いた後、権力機構の恫喝もあって、デッカードブレードランナーの仕事を引き受けた。

その直後の映像が映し出したのは、絶世の美女という印象を与えるレイチェルが、「人間」か「レプリカント」かのいずれか、という鑑別を受けるテスト。

それを担当したのは、デッカード

デッカードは、レイチェルがレプリカントであると結論付けるが、彼女自身はその事実を薄々感知しつつも正確に認識していなかった。

レプリカントを作り出したタイレル博士が、その辺の事情をデッカードに説明した。

「我が社は人間以上のロボットを目指している。彼女はその試作品だ。感情が目覚めてきた。そのために何か苛立っている。数年分の経験しかないからな。過去を作って与えてやれば・・・感情も落ち着き、制御も楽になる」

レイチェルが「人間」であることを本人に認知させるために、タイレル博士は彼女に「記憶」を与えたのである。

幼年時代の写真を何枚も持たせられたレイチェルの悲哀のルーツを知って、彼女に対する思い入れを深くするデッカードの心は漂流していた。

そんなデッカードが、反逆のレプリカントの一人であるゾーラを射殺した。

最初の「殺人」=「廃棄処分」である。

レプリカントとは言え、女を撃つのは気分が悪い。おっと・・・また感情が出てしまった。レイチェルを思い出す」

デッカードのモノローグである。


 


デッカードが、そのレイチェルによって命を救われたのは、彼がレプリカントのレオンに殺されかかったときだった。

「死ぬのは怖いだろう」

レオンはデッカードに、そう言ったのだ。

死の恐怖のリアリティを感受したデッカードに、生の歓喜の時間が訪れたのは、その直後だった。

レイチェルと過ごす、一時(いっとき)の至福。

「もし私が逃げたら、追って来る?」とレイチェル。
「俺は追わん。借りがある」とデッカード

感情を持つ二人の静謐な時間が、荒廃した暗鬱な都市の一画に緩やかに流れていく。

「キスしてと言え」

ピアノを弾いた後、髪を下ろすレイチェルに、デッカードは、ブレードランナーの仕事からの解放感を求める者の含みを隠すかのように、素っ気なく言った。

「言えないわ」

そう答えた後、レイチェルは求める者のように、「キスして」と反応した。

タイレル博士が説明したように、彼女もまた、目覚めてきた感情の故に何か苛立っていて、解放感を求めて止まないのか。

「抱いて。可愛がって・・・」

そんな思いが、レイチェルを一人の「女」に変えていく。

複雑な感情が絡み合って、二人は深い睦みの世界に、その身を投げ入れていった。


 
(人生論的映画評論/ブレードランナー('82) リドリー・スコット <人間とヒューマノイドの鑑別テストを必要とする、大いなる滑稽さ> )より抜粋http://zilge.blogspot.jp/2010/03/82.html