ノーマンズ・ランド('01)  ダニス・タノヴィッチ <〈状況〉が分娩した憎悪の鋭角的衝突を相対化した男の視座のうちに>

1  塹壕内の空気を支配する力関係の微妙な振れ幅



 1992年に出来したボスニア・ヘルツェゴビナ紛争下で、ボスニア軍の交代班が夜霧の中で迷った末に、セルビア軍の猛攻撃を受け、「ノーマンズ・ランド」と呼ばれる「中間地帯」に辿り着く。

 生き残った兵士は一人。

 その名は、チキ。

 「ノーマンズ・ランド」の塹壕偵察のために、セルビア軍は二人の斥候を派遣した。

 ベテランの中年兵と、新兵である。

 塹壕に辿り着いた二人は、そこでボスニア兵のチキと交戦し、ベテランの中年兵は戦死し、新兵も負傷した。

負傷した新兵の名は、ニノ。(画像)

 交戦直前に、ボスニア兵の死体の下に、セルビアの中年兵は地雷を仕掛けていた。

 所謂、「ブービートラップ」(敵が油断するような対象物に仕掛ける殺傷兵器)である。

 ところが、死体と思われたボスニア兵は気絶していただけで、意識を取り戻したのだ。

 意識を取り戻したボスニア兵の名は、ツェラ。

 中年兵の相貌である。

 今や、この塹壕には、3名の兵士だけが取り残されたのである。

 1対2の敵対関係を構成するが、実質的には兵力にならないツェラがいるので、1対1の敵対関係が、「ノーマンズ・ランド」の塹壕内に形成されていた。

 しかし厳密に言えば、「ブービートラップ」の対象物と化した、ツェラの面倒を看なければならない立場にあるチキの方が、セルビア新兵のニノよりもハンディがある分だけ不利であるだろう。

 チキの方が不利でなかったのは、彼の持つ自動小銃のお蔭だった。 

そんな力関係の微妙な振れ幅が、この「中間地帯」と呼称される塹壕内の空気を支配する構図のうちに形成されていたのである。

 
 
(人生論的映画評論/ノーマンズ・ランド('01)  ダニス・タノヴィッチ  <〈状況〉が分娩した憎悪の鋭角的衝突を相対化した男の視座のうちに>)より抜粋http://zilge.blogspot.com/2011/01/01.html