緑のある風景(その3)

 「緑のある風景」というイメージの中で、私にとって最も馴染んだ風景は、近隣の三宝寺池公園を除けば、ここでもまた、高麗郷を中心にする奥武蔵・秩父の春の風景である。

 とりわけ、去年もそうであったように、寒冷期を乗り越えるために葉の鮮度を維持することを捨て切ったあとに、数か月に及ぶ厳しい冬枯れの季節を突き抜けて、今年もまたやって来た陽春の季節の中で新しい生命を分娩し、艶(つや)やかな若葉ではち切れそうな彩りを、凛として、辺り一面に表現して見せる新緑の候こそが、奥武蔵・秩父の春の風景の最も魅力的な相貌であると言えるかも知れない。

 陽春の季節に、最寄りの大泉学園駅から下りの西武池袋線に乗って1時間もしないうちに、高麗駅に着く。

 そこで下車せず、高麗駅から西武秩父に至るまでの8箇所の駅までの時間の中で、ただ窓外の景色を見ているだけで、視界に飛び込んで来る瑞々しい風景の彩りに心が騒ぎ、落ち着かなくなる。

 この瞬間がたまらないのだ。

 今度は上りの西武線に乗り換えて、特定スポットで下車すればいい。

 そこで、山里徘徊を存分に愉悦する。

 言葉で言い表せない感動があるから、山里徘徊が止められなくなる。

 それは、私にとって、極上の「思い出の風景」であった。(画像は秩父札所)
 
 
 
[ 思い出の風景  緑のある風景(その3)  ]より抜粋http://zilgf.blogspot.com/2011/12/blog-post_28.html