山里陽春

 「山里陽春」というイメージから連想されるビュースポットは、私の中で殆ど限定されていると言っていい。

 ここで紹介する、あまりに有名な山梨県一宮の「桃の里」は、平日に訪れることが可能ならば、最高の「山里陽春」のビュースポットであるに違いないが、どうしても日曜祭日に訪れることになるので、どれほど遅くとも午前9時頃までに現地に着くような、相当に難儀なスケジュールを組む事態が強いられてしまうのが甚だ残念でもあった。

 「4月上旬―中旬、一宮町は、一面ピンクの絨毯を敷き詰めたように桃の花が咲きます。 4月6日から4月15日『いちのみや桃の里花まつり』 が開かれました」

 これは、「笛吹市一宮町観光協会」の2011年用の、意外にあっさりとした観光情報。

 「東北地方太平洋沖地震」が起こって間もない頃だったので、観光情報も遠慮気味だったのだろう。

 経験的に言えば、早朝の清々しい気分の中で、その臭気に触れただけでも、充分に満足できる心地良さを体感できるビュースポットとして、一宮の「桃の里」が出色の風景美を具現しているのは紛れもない事実である。

 まさに、ピンクに染まった「桃の里」のエリアが広角的に捕捉される大パノラマの風景は、「山里陽春」というイメージそのものなのだ。

 この「桃の里」と並んで、「山里陽春」の圧倒的な風景美を表現するのは、千葉県富津市にあるマザー牧場の春である。

 ここには一度しか訪れていないので、偉そうなことは言えないが、「桜と菜の花」のペアの構図は、殆ど観光パンフレットの如き定番的な画像性の厭味が張り付いているものの、このフラットな、規格化された絵画的構図の定番の平凡さこそ、私にとって、無限の解放系の大パノラマの風景に呑まれる心地良さを保証するもの。

 「マザー牧場は、房総半島の山々や、東京湾や富士山の雄大な景色が見渡せる鹿野山(かのうざん)にあります。都心から近い場所にありながら、豊かな自然とふれあうことができ、子供から大人まで楽しめる観光牧場として親しまれ、国内有数の施設として発展してきました」

 これは、「株式会社マザー牧場」の公式HPの一文。

 「マザー牧場は、産経新聞や東京タワーなどを創業した前田久吉がつくりました。大阪の郊外にあった前田の生家は貧しい農家で、お母さんはいつも口ぐせのように『家にも牛が一頭いたら、暮らしもずっと楽になるけど・・・』といっておりました。このことが心の奥深く残っていた前田はこれからの日本にとって畜産振興が必要であることも考えあわせ、いまはなきお母さんに捧げる牧場という気持ちをこめて『マザー牧場』と名付けたのです」

 これは、今では普(あまね)く人口に膾炙(かいしゃ)されている、有名なマザー牧場の立ち上げの由来に関わる一文。

 とりわけ、「花の大斜面・西」の中で表現される壮観な風景美は、母思いの創業者の熱意が実ってか、「菜の花やサルビアの時期には、牧場が黄色や赤に染まります」という、公式HPの文言が大袈裟に聞こえないほどの見事なスケール感で、言葉を失う程に圧倒される思いだった。

 しかし何と言っても、私の中で、「山里陽春」のイメージから連想されるビュースポットは一つしかない。

 奥武蔵・秩父の春である。

 「奥武蔵・秩父の春は美しい。この美しさは、一定期間低温に晒され続けた花芽が年を越し、なお耐えて、漸く巡ってきた気温の加速的上昇によって、厳しい冬の季節を突き抜ける『休眠打破』の美しさである」

 これは、「思い出の風景」の写真ブログ内の、「奥武蔵・秩父の春(その2)」の冒頭での一文。

 「休眠打破」の美しさを継続的に具現する奥武蔵・秩父の春は、いつまでも私の中にあって、最高の「山里陽春」のビュースポットであるばかりか、ある種のセラピー効果抜群の、「美しき日本の美しき春」の特別な別天地なのである。(トップ画像は、岩根山つつじ園・埼玉県秩父郡長瀞町
 
 
[ 思い出の風景  山里陽春  ]より抜粋http://zilgf.blogspot.com/2011/10/blog-post_6408.html