フル・モンティ('97) ピーター・カッタネオ <日常と非日常の危ういラインで、困難な状況を突き抜けた者たち>

イメージ 1  1  肝心の局面で、本気の勝負に打って出た男たちの物語



 かつて、淀川長治産経新聞のコラムで書いたように、「フル・モンティ」とは「すっぽんぽん」を意味するというのが定説である。

 また、「20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン株式会社」発売のビデオ「フル・モンティ」に添付された「イギリス的用語集」には、「裸、ヌード」という意味が紹介されていた。

 なお、「Full Monty」を英和辞書で検索すると、英俗語として、「(余すところなく)全部」と記されていた。

 更に、以下のような意味を含むという説もある。

 モンティ(Monty)の愛称で呼ばれた、英国陸軍の軍人である、バーナード・モントゴメリー将軍は、第二次世界大戦のエル・アラメインの戦い(北アフリカ戦線での、枢軸国軍と連合国軍の戦い)で、ドイツの誇るロンメル軍団を撃破したが、その持前の激しい性格によって、連合軍総司令部内で喧嘩が絶えないマッチョな性格の御仁。

 ついでに言えば、「空飛ぶモンティ・パイソン」というBBCのコメディ番組の名称も、モントゴメリーに因んで名づけられたもの。

 以上のマッチョ将軍のエピソードから、まさに、「フル・モンティ」という映像のタイトルには、毀誉褒貶(きよほうへん)相半ばするモントゴメリー将軍の軍役人生のように、「相手を恐れず、最後まで自分の持てる力を出し切って、完全に戦い切れ」というメッセージが、ダイレクトに主唱されているという見方も可能なのである。

 このような含意を重視する私が、「ハートフルコメディ」とも、「ポップコーンムービー」とも称される本作の中枢的メッセージを、「最後まで自分の持てる力を出し切って、堂々と完遂せよ」という意味合いで把握した次第である。

 人間は失うものがないとき、しばしば開き直って大勝負に打って出るが、決して失ってはならないものを持つときもまた、散々迷走し、紆余曲折しながらも、肝心の局面において、本気の勝負に打って出るという心理もまた真実であるだろう。

 本作は、そういうモチーフを持つ男たちの映画でもあった。



 2  単に面白いだけで終わらない、「人生論的メッセージ」を包含した映像
 
 
 
シェフィールド大学に代表される学術都市として、今や工業都市から緑の街へ変貌したシェフィールド(画像は、映画の舞台となったシェフィールドの町)の片隅で、恐らく、低所得層向けの公共的コレクティブハウスに住む主人公のガズが、別れた女房への養育費を払えなくなった挙句、息子のネイサンとの定期的な面会も禁じられて、その窮地を脱するために考えた手段が、男たちによるストリップの公演。

 「一攫千金には、この方法しかない」

 そう考えた男が仲間を集めて、紆余曲折しながらも、最後は、「一回限りの完全ストリップ」を自己完結するまでの話である。

 考え抜かれた秀逸なシナリオによって、ユーモアとペーソス溢れる一級のヒューマンコメディが、20世紀も終わりに近い英国の映画界に誕生したのは、或いは、映画史にとって一つの画期かも知れないと思えるほどだ。

 「面白いだけの映画」なら掃いて捨てるほどあるが、作り手がそれを意図したか否かに関わらず、「単に面白いだけで終わらない、『人生論的メッセージ』を包含した映画」という作品はザラにないだろう。

 少なくとも本作は、私の中では「面白いだけの映画」ではなかったということだ。

 英国映画らしく、一切の奇麗事の言辞を吐かない見事な本作から読み取る、「人生論的メッセージ」の文脈を、私は以下のように簡潔に把握したいと思っている。

その1  生きるためには何でもやれ。男性ストリップ、大いに結構。

 その2  やるからには、最高のパフォーマンスを見せろ、或いは、自分の持てる力を全て出し切れ。

 その3  最高のパフォーマンスに向かうプロセスでの様々な右顧左眄、紆余曲折を経て、そこで自己完結した「自分の仕事」を存分に誇れ。

 その4  「自分の仕事」を存分に誇ったスピリットを捨てることなく、〈生〉を継続させるために、必死の覚悟で「自分の仕事」を探せ。

 その5  そのためには、何よりも、まず動け。動いて、動いて、動き切って、それでも駄目なら、死ねばいい。決して失ってはならないものを失う覚悟を持って、死ねばいいのだ。そこまでやれ。

 詰まる所、生活基盤が脆弱な状況下ながら、どれほど苦境に陥ったとしても、それを何もかも、安直に、「他者や社会の責任」に還元させることなく、自力で生きていくことを諦めるな、その思いを捨てるな。

 少なくとも私にとって、そういう映画だったのだ。


 
(人生論的映画評論/フル・モンティ('97) ピーター・カッタネオ <日常と非日常の危ういラインで、困難な状況を突き抜けた者たち> )より抜粋 http://zilge.blogspot.jp/2010/01/97.html