1 よりマシな大人の介在が子供の〈自由〉を保証する
「子供の非行は全て大人が作る」という一般に流布された把握に、相当の真実性があることを認めることは、子供が「快・不快の原理」を延長させ、「好き放題」に生きるという立ち入り禁止の「子供共和国」を無前提に立ち上げて、大人はただそれをサポートするだけでいいという、幼稚な議論を認知することと決して同じではない。
これは、子供の創造力を育む、デンマーク発祥の「プレイパーク」の活動を支援することとも同義でない。
古タイヤでトンネル・滑り台を作ったりなど、「冒険遊び場」とも呼ばれる、「プレイパーク」の活動を支援するNPO法人は全国各地に見られるが、子供たちが想像力を駆使して、自ら遊びを作り出すことが主旨なので、決して「好き放題」に流れ込むような無秩序性はない。
文字通り、「子供の国」なのである。
また、様々な批判を耳にしているが、「子供の家」という特定スポットで、「モンテッソーリメソッド」の資格を有する教諭によって、「整えられた環境」(教具の選択・縦割りクラス編成などの環境構成)を作り、一定のルールのもとで〈自由〉が保証され、伸び伸びとした活動を許容することで、子供の自発性・主体性・集中力を育み、「個」を育てるという意味で、「モンテッソーリ教育」も、この「子供の国」の範疇に含まれると言えるのかも知れない。
子供たちに内在する能力を引き出す生活環境を整備すること ―― 0歳から開かれても、「お受験」とは無縁な「モンテッソーリ教育」の中枢は、この一点に尽きるだろう。
特に、縦割りクラス編成での活動は、上下3歳の幅を持つ異年齢混合クラスの「学び・世話」の交流体験を通して、当該児童の自我形成に少なからぬ影響を与えると思われる。
但し、「モンテッソーリ教育」に対して、私自身、実際に授業見学をしていないので何とも言えないが、子供の自発性・主体性・集中力を育む個性教育が一定のルールの範疇を超えてしまったら、それでも、件の子供の個性を重視するという視座で、その行動を許容し得るだろうか。
否という外にない。
言わずもがな、「モンテッソーリ教育」がそうであると決めつけているわけではないが、如何なる状況下において、よりマシな大人の介在があっても、「個人を尊重する教育」という絶対無敵の理念のうちに、子供の「好き放題」の連射にダメ出しできない、ルール違反の行動を許容する教育を、私は拒絶する。
その辺りの具象的風景が見えないので、これ以上の言及は避けたい。
―― 冒頭の問題に戻る。
問題を起こす大人の全てが、必ずしも、問題を起こす子供時代の延長線上にないのは、問題を起こす子供が社会に入って、様々に再教育される可能性を無視できなかったことを意味する。
思うに、大人の社会が劣悪さに溢れているのは、単に、無垢を脱した大人たちが性悪さに流れたのではなく、敢えて言えば、人間の存在それ自身が、多岐にわたる行動様態の劣悪さと共存する可能性を内包しているからである。
だからこそ、人間教育が普遍的価値を持つのである。
大人の存在が完全に消し去られた無秩序な状態で「子供共和国」が立ち上げられてしまうと、その「子供共和国」にも闇が浸透するというネガティブな風景は、既に、20世紀の英国の小説家・ウィリアム・ゴールディングが、少年たちの「根源的悪徳性」が炸裂する厄介な〈状況〉を描いた小説・「蝿の王」で喝破した通りである。
―― 以下、2度にわたって映画化された「蝿の王」の簡単なストーリー。
飛行機の墜落によって、南太平洋の無人島に取り残された24人の少年たちがいた。
二人のリーダー格の少年が中心となってルールを作り、狼煙(のろし)を上げて救援を待とうとする。
ところが、少年たちの「子供共和国」の協力行動に破綻が生じる。
彼ら少年たちの間で仲違いが生まれ、一気にエスカレートする。
ここでも、無人島で「好き放題」に生きる少年グループの暴走が止まらず、遂には、狼煙を上げるという「絶対ルール」を怠ったことで、「救援の船」が過ぎ去ってしまう。
この一件が原因となり、分派したグループ間の対立が惹起する。
それは、当初の規範を失って、次第に殺し合いにまで膨張していく、背筋が凍る恐怖の闇の幕開けだった。
「好き放題」に生きる立ち入り禁止の「子供共和国」の限界が、ここにある。
それは、ルールの破綻から壊れてしまう「子供共和国」の限界である。
「善・悪の原理」という、結構重い道徳律を背負い、大抵、「損・得の原理」で生きる、よりマシな大人の介在が求められる所以である。
無秩序な〈状況〉に放り込まれた挙句、「子供共和国」にも闇が浸透する可能性をが提示した「蝿の王」のリアルな世界は、肝を冷やすほどに、あまりに根源的であり過ぎた。
心の風景 教育とは自由の使い方を教えることである よりhttp://www.freezilx2g.com/2017/07/blog-post_31.html