菅野智之は日本球界で最強の投手である ―― 「10完投200イニング」を目標にする男の真骨頂

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1  不名誉な「負け運」を払拭した絶対的エースの一気の跳躍
 
 
 
巨人の絶対的エース・菅野智之は、今や日本球界でNO.1の投手である。
 
私は、勝手にそう思っている。
 
何もかも素晴らしい。
 
特に、2017年の成績は圧巻である。
 
2年連続3度目の栄冠に輝く最優秀防御率
 
規定投球回数187 /3イニングで、1・59という数字の凄みは、両リーグの投手との比較を考えれば了然とするだろう。
 
まず、セ・リーグ
 
同チームで防御率2位のマイコラスが、投球回数188イニングの2.25(最優秀防御率のタイトルを獲得する際に必要な規定投球回数は、所属球団の試合数×1.0)で、14勝の成績は素晴らしいが、防御率3位の野村祐輔(広島)が投球回数1551/3イニングの2.78で9勝、防御率4位の今永昇太(横浜)が投球回数148イニングの2.98で11勝、そして、5位以下は全て防御率が3点台の成績だ。
 
 
2013年に長期離脱した左肩の炎症の怪我を乗り越え、開幕投手を務めた2016年に初めて規定投球回数に達し、今年、本来の才能を炸裂させた菊池雄星(きくちゆうせい)のピッチングは文句なしに素晴らしい。
 
球速への拘(こだわ)りがあるのか、スリークォーターから違反投球とされた二段モーション(注1)で投げる、切れ味鋭い150キロのストレートとスライダーで、8試合連続2桁奪三振でNPB記録を更新した則本昂大(のりもとたかひろ/楽天)と最多奪三振のタイトルを争うほどに、217の奪三振は図抜けている(則本が最後に逆転し、史上4人目の4年連続奪三振王のタイトルを奪取)。
 
投球回数187 2/3イニングで、防御率1位の1.97も群を抜き、2.6434で防御率2位の千賀滉大(せんがこうだい/ソフトバンク)の、ぎりぎりの投球回数143イニング、更に、2.6438で同3位の東浜巨(ひがしはまなお/ソフトバンク)の投球回数160イニングを大きく離し、先発完投型の本格派投手に授与される最高の栄誉・沢村賞の候補になるのも頷(うなず)ける。
 
但し、この沢村賞に関しては、残念ながら、菊池雄星より一段レベルが上の菅野智之に及ばないだろう。
 
私個人の感懐を言えば、セ・リーグの全てのチームを抑えている菅野と比較して、肝心の優勝チーム・ソフトバンクから打たれっ放しで、8点台近い防御率の不甲斐なさは無視できないので、楽天とのファーストステージを勝ち上がり、ソフトバンクとのファイナルステージでリベンジできれば印象度がアップする程度であると思われる。
 
沢村賞に関して更に言えば、その選考基準が勝利数・勝率・奪三振・完投試合数など7項目ほどあるが、純粋に投手個人の能力である防御率と、先発完投型の本格派投手の証明となる投球回数の価値の高さを、私は重視している。
 
その意味で言えば、1・59という防御率の凄みは出色である。
 
とりわけ、今年は3月のWBCからフル回転し、ローテーションを最後まで守り切り、7月以降、12登板で10勝1敗で、防御率0・60という数字の凄みは決定的である。
 
どう転んでも、今年の沢村賞菅野智之で決まりである。
 
ここ数年、「得点援護率」(「援護率」)が極端に少なく、不名誉な「負け運」を引き摺っていた(注2)菅野は、2017年に「援護率」が3点台に乗ったことで、「自分が0点に抑えれば、負けることは100%ない」という心境を強いられていただけに、ようやく、字義通りの「絶対的エース」に落ち着くに至った。
 
巨人だけが20本塁打以上の打者が不在の中で、不名誉な「負け運」を払拭した絶対的エースの一気の跳躍。
 
1年間、ずっと見ていて、菅野智之の「一気の跳躍」は、不断に進化するアスリートの真骨頂が球史に刻まれたことを意味するだろう。
 
 
 
2  自らのピッチングスタイルの完成形を目指す男
 
 
 
以下、私が菅野智之に強く惹かれる理由を書いていきたい。
 
その1。
 
その瞬間、投手が輝く奪三振の魅力に取り憑かれることなく、「打たせて取る」という、一見、地味なピッチングスタイルに拘(こだわ)っていること。
 
バットの芯を外し、下方に当てさせることで、低めに上手くコントロールする投球術に優れていることが必要条件になるが、当然ながら菅野は及第点である。
 
これを、「グラウンドボールピッチャー」と言う。
 
内野ゴロを打たせることができる投手のことで、MLBでは球数を節約する投球が高く評価され、DL(故障者リスト)入りを防ぎ、ローテーションを守るために必須な球数制限の制約に拘泥(こうでい)するのは周知の事実。
 
だから、奪三振の魅力に取り憑かれ、不必要なまでに球数を増やしてしまう「剛速球投手」は、必ずしも歓迎されない。
 
また、「グラウンドボールピッチャー」と対極の「フライボールピッチャー」は、外野ゾーンまで飛ばされるミスの危険性が常にあり、MLBでは評価が低い。
 
その典型が井川慶で、MLB・ヤンキースで2勝しか残せなかった(防御率は2年にわたって、6.25と13.5)。
 
また、巨人のカミネロも同様で、抑えの失敗の危うさが常にある。
 
「グラウンドボールピッチャー」(2016年のゴロの割合は55.3%)と言われている菅野智之だが、ゲームの状況を分析する能力の高さで、150キロのワンシーム系のストレートを勝負球にして、本来的な力投派・速球派の片鱗(へんりん)を見せることが多々ある。
 
「ワンシームは親指にボールの縫い目がくるように固定し、親指で支えている。だから、しっかりとした軌道を描ける」
 
菅野自身の解説である。
 
ストレートの進化によって、「グラウンドボールピッチャー」としての希有な能力を発揮するのだ。
 
それを証明するデータがある。
 
「2016年までの10年間で、満塁時に最も三振を奪った投手は」というテーマを指標にした調査であり、これは、ピンチを切り抜ける能力の高さ=「クラッチピッチャー」の重要な尺度となる。
 
結論から言うと、ダルビッシュ有が1位で第2位が田中将大だが、彼らは今やバリバリの現役メジャーリーガーなので外すとすれば、日本球界のNO.1の「クラッチピッチャー」は菅野智之である。
 
その菅野が、2016年のシーズンまでに満塁の走者を背負った状態で対戦した打者の数は、プロ入り後、4年間で「64」。
 
その64回の満塁時の打席に対して、彼が奪った三振の数が「21」。
 
奪三振率にして「32.8%」という、抜きん出た数字こそ、ピンチに強い先発完投型の本格派右腕の証明である。
 
例えば、ノーアウト満塁の時、菅野はギアを上げ、打者を三振に取る。
 
そして、次打者を、抜群の制球力でゲッツーに取る。
 
或いは、俊足の打者なら三振に取る。
 
こういうピッチングができるので、常に失敗の危うさと切れている印象を与え、「フライボールピッチャー」というより、「グラウンドボールピッチャー」が醸し出す安定感を感じさせるのだろう。
 

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