つぐない('07)  ジョー・ライト <「贖罪」の問題に自己完結点を設定することへの映像的提示>

 「1930年代、戦火が忍び寄るイギリス。政府官僚の長女セシーリアは、兄妹のように育てられた使用人の息子、ロビーと思いを通わせ合うようになる。しかし、小説家を目指す多感な妹ブライオニーのついたうそが、ロビーに無実の罪を着せ、刑務所送りにしてしまう」

 以上の一文は、「シネマトゥデイ」からの引用。

 本作は、「小説家を目指す多感な妹ブライオニーのついたうそ」によって翻弄された、ロビーと長女セシーリアの悲恋と、13歳の少女の嫉妬感ゆえの嘘が招来した不幸な事態へのトラウマが、贖罪を内的に必然化する行程をサスペンスの筆致で描き切った秀作である。

 13歳の少女であるブライオニー(画像)の嘘によって、刑務所送りになったロビーはナチスドイツとの大戦の前線に、一兵卒として志願することで、何とか命を繋いでいた。

 彼の切なる思いは、セシーリアとの再会のみ。

 「僕は戻る。君と再会し、愛し、結婚するために。堂々と生きるために」

 彼の懐には、セシーリア宛ての戦場からの手紙が、大切に保管されていた。

 「すげえ。聖書みたいだな」

 有名なダンケルク(1940年5月、独軍電撃戦によって、敗走する英仏軍が劇的な撤退をした地)の撤退の風景を俯瞰した、ロビーの戦友の言葉。

 そのダンケルクの撤退に間に合わなかったロビーは、そこで負傷して意識を失ってしまう。

 一方、ロビーを追い駆けるように、セシーリアは従軍看護師になっていた。

 そして、セシーリアの強い思いが叶って、二人は再会し、束の間、至福の時間を共有していた。
 
 更に、ロビーと姉に対する深い悔悛の思いから、18歳になったブライオニーもまた、ナースとして働いていた。

 そんな折り、ロビーが逮捕されるレイプ事件の被害者である、かつての友人のローラと、彼女に恋心を抱いていたポニー・マーシャルとの結婚の事実を知って、ブライオニーは、「今、この時」を逃したら永遠に贖罪を果たせないという思いを強め、恐る恐る、姉の元を訪ねたのである。

 姉を訪ねたブライオニーは、そこでロビーと出会い、気が動顛した。

 ロビーは、ブライオニーを厳しく難詰していく。

 「正直に言おう。首をへし折るか、突き落とすか迷っている。刑務所がどういうものか知らないだろう?想像して楽しかったか?」

 毒気に満ちたロビーの攻撃性に、ブライオニーは言葉を失う。

 抑制の効かないロビーは、一気に捲し立てていく。

 「何もせずに。僕が襲ったと?」
 「いいえ」
 「当時は・・・」
 「ええ。でも・・・」
 「なぜ、変った?」
 「大人になって・・・」
 「13歳では・・・」
 「何歳で善悪の区別がつく?君は今、18歳か?18でやっと嘘を認めるのか。18歳で道端で死んでいく兵士もいるんだぞ。5年前は真実に無頓着。僕にどれほど教育があろうと、君らには下層の者だった訳だ。君のせいで、皆、平然と僕を見捨てた」

 感情の昂揚を抑えられず、ロビーはブライオニーを殴ろうとして、セシーリアに止められた。

 「戻って来て。私の所へ」とセシーリア。

 ロビーを想う彼女の心は、いつも、この言葉のうちに収斂されるのだ。

 「できるだけ早く、君の証言が偽りだと両親に話すんだ。弁護士と陳述書を作り、署名して送ってくれ。なぜ、僕を見たと言ったか、詳しく説明する手紙も」

 ロビーはブライオニーに、なお迫っていく。

 ここでブライオニーは、ローラと結婚したポニー・マーシャルが「レイプ事件」の犯人であると釈明した。

 「本当にごめんなさい。こんなひどい目に遭わせて」
 「頼んだことをやれ。本当のことを書くんだ。二度と来るな」
 「ええ、約束する」

 ここで、本作の最も重要な3人の絡みのエピソードが閉じていく。

 しかし、映像は一転して、晩年のブライオニーを映し出した。

 以上のエピソードは、「小説の中の作り話」であったのだ。



(人生論的映画評論/つぐない('07)  ジョー・ライト <「贖罪」の問題に自己完結点を設定することへの映像的提示>」)より抜粋http://zilge.blogspot.com/2011/02/07.html