2018-01-01から1年間の記事一覧

「丸刈り」にされた女 ―― 尊厳を奪回する「覚悟の帰郷」

1 「性的な対独協力者」に対する「丸刈り」という狂気の沙汰 第二次世界大戦期のドイツとフランスにおいて、女性に対して行なわれた「丸刈り」という凄惨な現象がある。 髪を刈るという行為自体は男女に拘らず、古代からあった。 古代からあった「丸刈り」…

「法の正義」を拠り所に、絶望的な孤独の戦いを繋ぎ切った男の物語

1 南北戦争という壮絶な内戦のあとで 50州と「コモンウェルス」(プエルトリコ・北マリアナ諸島の「米国自治連邦区」で、海外領土の保護領)から成る連邦共和国・アメリカ合衆国史上最大、且つ、唯一の大規模な内戦である南北戦争の悲惨さは、5万人とも…

黒人差別に終わりが見えない ―― アメリカ社会のの深い闇

1 観念としての「差別意識」と、身体表現としての「差別行為」を峻別せねばならない 「差別をしてはならない」 教育現場で、よく耳にする言葉である。 異論はないが、疑問も湧く言葉である。 「対象への排外・拒絶行為」 ―― これが、「差別」に対する国連の…

「リベラル」とは、個人の権利の行使が他人の権利の行使を妨げない態度の様態である

1 テストステロンは「勝ちのホルモン」である 筋肉の強度・性機能の維持・太い骨格・逞しい身体に表現されているように、人間の闘争心の原動力となっている男性ホルモン ―― それが、「勝ちのホルモン」と言われるテストステロンである。 しかし、「幸福感」…

「棄老伝説」の本質は反転的な「敬老訓話」である

1 伝承者が絶えれば、「昔話」のレベルの「物語」は変容する 近代社会成立以前に形成されていた、成員の農業生産の自給的生産体制による地縁的相互扶助の共同体。 単位集団の自立性が高く、この閉鎖的・自足的な共同体は、元々、鉄器の普及によって灌漑(か…

「マタニティブルー」 ―― その神経症状の破壊力

1 成熟した自我から「母性」が生まれる ―― 「児童虐待」という闇の深さ WHO(世界保健機関)の福祉プログラムの根幹になっているコンセプトに、「母性的養育の剥奪」という概念がある。 養育者による愛情に満ち溢れた世話を受ける機会を喪失(母性喪失)…

噂の心理学 ―― 或いは、セカンドレイブの包囲網の只中で闘うジャーナリスト

1 噂⇒デマの怖さを映画化した秀作 「噂の二人」という演劇ベースの映画がある。 アメリカの左派の劇作家・リリアン・ヘルマンの原作で、一度観たら忘れない、ウィリアム・ワイラー監督の秀作である。 粗筋を簡単に紹介すると、以下の通り。 ―― 学生時代から…

「健全な社会」は適度な「不健全な文化」を包摂する

1 「宗教国家」・アメリカの中枢に風穴を開けた男の物語 ラリー・フリントという男がいる。 赤面するほど過激なポルノ雑誌「ハスラー」(注1)を創刊し、「ポルノ王」を自称する実在人物である。 「カッコーの巣の上で」・「アマデウス」で知られる、ミロ…

「平昌五輪」 ―― 近代スポーツの宿命と結晶点

1 自らが背負った負荷を昇華する高梨沙羅の「恐怖超え」 近代スポーツは、観る者の好奇心に睦み合うように作られていく。 そこで作られた新種のスポーツは、時代の鮮度が削(そ)がれることがないように、万全のルールを作り、「より面白く」・「より緊張感…

「感情の氷河化」 ―― 「べニーズ・ビデオ」、その「分らなさ」という衝撃

1 観る者の「ミラーニューロン」の活動電位が鈍化し、少年への「感情移入」を遮断させる肌寒き風景 「ホラーもSFも、アドベンチャーも、自分が状況を支配できるという幻想を持つことから生まれる。監督は状況を支配できる。映画は監督の創作だから。観客…

ミヒャエル・ハネケ監督を全否定するシネフィルたちの性質(たち)の悪さ

1 「不快なハネケ」の「不快な映画」という捨て台詞の遣り切れなさ ミヒャエル・ハネケ監督の映画ほど物議を醸し、厭悪(えんお)される作品もないだろう。 「ファニーゲームを観た。リアル過ぎて最高に気分が悪くなった。なんだこれ、鬼畜。一生みないね。…

壊れゆく、ほんの少し手前の風景が一番美しい

1 イメージとして揺蕩(たゆた)っている定義困難な「美」は、常に、時代によって揺れ動く価値を有する何かである 常緑針葉樹のアカマツや、ヤマザクラ、カエデ類の落葉広葉樹林の国有林によって、見事な森林景観で有名だった嵯峨嵐山が、建築用材の需要の…

「オリンピック」に収斂される近代スポーツの本質 ―― 或いは、「2020年東京五輪」が抱える隘路

1 福島の状況は「アンダーコントロール」されているか オリンピックは「ハレ」の大行事である。 アスリートが、自らの能力をマキシマムに全身で表現し、自己完結するスポーツの「ハレ」の祭典である。 その「ハレ」の祭典が、東京に決定された。 2013年…

「戦場の性」 ―― 私たち人間に突き付けられた、あまりに重い恒久的課題

1 「ベルリン終戦日記―ある女性の記録」 ―― その壮絶なる問題提起 敗戦後の日本で、米軍が上陸した最初の10日間だけで、1336件のレイプ事件が発生した。 この数字が、神奈川県下のみでのレイプ犯罪であるという史実に震撼させられる。 この史実の信憑…

「武士道」とは、非生産階級としての武士階級の防衛的安全弁である

1 「武士道」は朱子学のイデオロギーに裏づけされつつ、進化していった 「御恩」と「奉公」の契約から成る主従関係に拠って成る、武士階級の倫理体系を、広義に「武士道」と呼ぶならば、この倫理体系の基盤が鎌倉時代に成立したと考えるのが常識である。 こ…

人は皆、自分自身をどこまで把握して生きているのか ―― 映画「嘆きの天使」の「予約された酷薄さ」

1 「私的自己意識」と「公的自己意識」の落差 作品の良し悪しとは無縁に、一度観たら、絶対に忘れられない映画が、稀にある。 80年前の映画が、なお、私の脳裏にこびりついて離れない。 「嘆きの天使」 ―― これが、その映画の名である。 1930年の古典…

恐怖感が人間を守る

1 扁桃体は脳の警報装置である 「人間が進化的に作り出した必然的な感情」。 このような感情を、私たちは不安と呼ぶ。 不安感情は、「今・ここ」のみに生存するだけの他の動物には、殆ど見られない感情である。 動物の寿命は、人間の寿命である「生理的寿命…

「思うようにならない人生の極みのさま」 ―― 人生の真実を描き切った成瀬映画の真骨頂 その2

16 声を上げ、たじろがず、情を守り、誇りを捨てなかった女 ―― 映画「あらくれ」 この映画は、一言で言えば、「声を上げ、たじろがず、情を守り、誇りを捨てなかった女」の物語である。 実際、映像の中で、女(お島=高峰秀子)は声を上げ、主張し、自分の…

「思うようにならない人生の極みのさま」 ―― 人生の真実を描き切った成瀬映画の真骨頂

1 人間の運命の、多岐にわたるリアルの有りようをフィルムに刻み付けた映画監督 私はハッピーエンドの映画が嫌いだ。 「予定調和のハッピーエンド」 ―― こうなると、もうお手上げである。 人生が「予定調和」に流れていかないからこそ、人間の運命の、多岐…

「共食文化」の包括力

私たち人類の祖先は、相互の信頼関係を強化するために、食料分配という行為を利用し、仲間同士の親睦を深めていった。 そこで構築された多様な協力体制が、集団の堅固な関係を作り上げる基礎的役割を果たしたと言っていい。 「食料分配」という巧みな戦略は…