2011-01-01から1年間の記事一覧

エイリアン1('79)  リドリー・スコット  <「無秩序な稜線伸ばし」を相対化し切ったSFゴシックホラーの凄味>

1 自己増殖する異界の完全生物との、閉鎖空間での戦争の果てに 内部で生産した工業製品の販売を目的にした民間のスペース・シャトル、それが宇宙貨物船ノストロモ号だった。 ところが、その宇宙貨物船が地球に向かって帰航中に、電算機(マザー・コンピュー…

やわらかい手('07)  サム・ガルバルスキ <「不健全な文化」を適度に包括する、「健全な社会」の大いなる有りよう>

1 「感動譚」を成就させる推進力として駆動させた文化としての「風俗」 難病と闘う孫を、その孫を愛する祖母が助ける。 「あの子のためなら何でもするわ。後悔なんて少しもよ。家くらい何なの」 冒頭シーンで、既に家を手放した祖母が、息子に吐露した言葉…

清瀬・我が町 錦繍の秋

ここに収められている画像は、2000年のガードレールクラッシュ以降、カメラを手に持つことができなくなった私に替わって、些か時間の余裕ができた妻が「清瀬・我が町」の目眩(めくるめ)く素晴らしい風景を、デジタルカメラ(パナソニックLumix)で撮っ…

サウンド・オブ・ミュージック('64) ロバート・ワイズ  <訴求力を決定的に高めて成就した「内的清潔感」という推進力>

1 訴求力を決定的に高めて成就した「内的清潔感」という推進力 本作を根柢において支えているもの ―― それは、ジュリー・アンドリュース演じる修道女マリアの人物造形が、眩いまでに放つ「清潔感」である。 「素直で、健全な若者育成映画」、「観ると心が洗…

お引越し('93) 相米慎二 <他律的な児童期自我から自律的な思春期自我への「お引越」の物語>

1 「変化への恐れ」、「愛着感の喪失」、そして「親達の間の敵意」というリスクに搦め捕られた少女 極めて情緒的な映像に仕上がっている本作は、思春期前期にある12歳の少女が、両親の別居・離婚という「非日常」の状況下で、未だ幼い自我が蒙る複雑で様…

台風クラブ('85) 相米慎二<「閉鎖系の空間」を「解放系の空間」に変容せしめた「思春期爆発」の決定力>

1 思春期状況に呼吸を繋ぐ少年少女たちを捕捉する、「非日常」の未知のゾーンの危うさ 本作の基幹テーマは、映像の冒頭のシークエンスのうちに凝縮されている。 某地方都市の木曜日の夜。 市立中学校のプールで密かに泳いでいた一人の少年が、たまたま、プ…

隠された記憶('05) ミヒャエル・ハネケ <メディアが捕捉し得ない「神の視線」の投入による、内なる「疚しさ」と対峙させる映像的問題提示>

1 個人が「罪」とどう向き合っているかについての映画 「私たちはメディアによって操作されているのではないか?」 この問題意識がミヒャエル・ハネケ監督の根柢にあって、それを炙り出すために取った手法がビデオテープの利用であった。 覗き趣味に堕しか…

アフガン零年('03) セディク・バルマク <「恐怖心」を表現し切った少女の訴求力>

1 「オサマ」という名の「少年」が誕生したとき 「忘れられずとも許せはしよう」(N・マンデラ) これが、冒頭のキャプション。 「政治運動ではありません。私たちはひもじい」 ブルカに覆われた女性たちのデモでの、遠慮げなシュプレヒコール。 彼女たちの…

ハート・ロッカー('08) キャスリン・ビグロー <「戦場のリアリズム」の映像的提示のみに収斂される物語への偏頗な拘泥>

1 「ヒューマンドラマ」としての不全性を削り取った「戦争映画」のリアルな様態 テロの脅威に怯えながらも、その「非日常」の日常下に日々の呼吸を繋ぎ、なお本来の秩序が保証されない混沌のバグダッドの町の一角。 そこに、男たちがいる。 米陸軍の爆発物…

清瀬・我が町 その近辺(小金井公園他)

ここに収められている画像は、2000年のガードレールクラッシュ以降、カメラを手に持つことができなくなった私に替わって、些か時間の余裕ができた妻が「清瀬・我が町」の目眩(めくるめ)く素晴らしい風景を、デジタルカメラ(パナソニックLumix)で撮っ…

日本暗殺秘録('69) 中島貞夫 <ストレス発散映画としての本領を発揮した情感系暴走ムービーの短絡性、或いは、「やる」ことが全てである者たちの「甘えの心理学」>

1 「純粋動機論」のロールモデルとしての「心優しきテロリスト」 この映画は本質的に、1960年代半ば以降、他の映画会社を圧倒し、数多の「ヤクザ映画」を占有した感のある、東映の「任侠路線映画」の延長線上にある作品と言っていい。 この映画に登場す…

大石の戦争

この国の人々の心の風景の、あまり見えにくいテーマについて簡単に言及したい。 それは、この国の人々にあって稀薄だと思える「闘争心」のこと。具体的には、「日本人の闘争心の継続力の不足」についての言及である。 四方を海に隔たれていて、そこだけは何…

泥の河('81) 小栗康平 <差別された者たちの、拠って立つ共有幻想の時間の悲哀を訴える映像構築力>

1 「橋の下」に住む二つの家族の交叉の中で 「もはや戦後ではない」 これは、1956年の経済企画庁編纂の「経済白書」の表題である、「日本経済の成長と近代化」の中で使われた有名な記述。 流行語にもなったこの言葉の背景には、高度経済成長の嚆矢(こ…

おかあさん('52) 成瀬巳喜男 <喪って、喪って、なお失いゆく時代の家族力>

序 母子の変わらぬ情愛 成瀬作品には珍しく慈母観音が登場する映画だが、例によってその内実は甘くない。 「秋立ちぬ」の残酷さが人為的な環境によるものであるのに対して、この作品の残酷さは自らの力で軌道修復できない不幸に起因する。遣り切れないほどの…

清瀬・我が町 金山緑地公園

ここに収められている画像は、2000年のガードレールクラッシュ以降、カメラを手に持つことができなくなった私に代って、些か時間の余裕ができた妻が「清瀬・我が町」の目眩(めくるめ)く素晴らしい風景を、デジタルカメラ(パナソニックLumix)で撮った…

ダンサー・イン・ザ・ダーク('00) ラース・フォン・トリア <「殉教者なら死ななければならぬ」 ―― 確信的に創出された「愛の殉教者」のラストシークエンスの破壊力>

1 「人の琴線を震わせる何か」を狙った「ヘビーなミュージカル」の毀誉褒貶 少年時代に、コミュニストであった両親が、「カス」だと嘲笑していたミュージカルが好きだった男がいる。 しかし、彼が観たミュージカルは、「涙にむせぶようなヘビーなもの」では…

春爛漫

ここには、「武蔵野」、「奥武蔵」、「秩父」など、私にとて最も愛着の深い「春爛漫」の風景の多くの写真が収められている。 中でも、「奥武蔵」と「秩父」への愛着の深さは格別であり、そのエリアへの撮影行なしに、私の趣味の継続は存在しなかった。 特に…

緑のある風景

「緑のある風景」の中で、私にとって最も印象深いのは、距離の近さから、私が足繁く通った三宝寺池公園である。 新緑の頃の瑞々しいまでの美しさは、「光の春」への季節の変容を感受させるに充分過ぎるものだった。 三宝寺池公園の特化されたスポットの懐ろ…

飢餓海峡('65)  内田吐夢 <「極貧者利得」の欺瞞性を衝かれた男の脆弱性、或いは、「聖なる娼妓」の「無垢」という名の非武装性>

1 「無償の愛」の底力の前で屈服する男の崩れ方に集約される物語の決定力 「八重はソーニャのように、男主人公にとっては無償の愛をかわしあう相手でなければならぬ。(略)とにかく、二人の主人公が出来上がると、その二人の性格や、こし方や、生きている…

四季を旅して

以下の画像は、20年~30年以上前に各地を旅行した際に、主にコンパクトカメラで撮ったネガフィルムを、キャノンスキャナーによってスキャンして修正した画像です。 従って、光や酸化によって変色するネガの傷が、そのまま残っている写真も多くあります。…

ファニーゲーム('97) ミヒャエル・ハネケ <暴力の本質的な破壊力についての、冷徹なまでに知的な戦略的映像の極北>

夏の長期休暇をとって、湖畔の別荘へ向かうショーバー一家。 ヨットを牽いたワゴン車内には、夫のゲオルグ、妻のアナの夫妻と、一人息子のショルシと愛犬が同乗している。 奇妙な「事件」が起きたのは、セーリングの準備をしている父子の留守のときだった。 …

四季を歩く

眼の前にキャベツ畑が広がる、西大泉の一角で学習塾を開く傍ら、そこで空いた時間を目一杯利用しての、私の低山徘徊・撮影行脚は約20年間続いた。 今、思い起こしてみると、私の行動エリアは写真撮影限定の、都心や郊外の花名所巡りと、奥武蔵・秩父への低…

映画史に残したい「名画」あれこれ  外国映画編(その4)

フルメタル・ジャケット(スタンリー・キューブリック) 本作の物語構造は、とても分りやすい。それを要約すれば、こういう文脈で把握し得るだろう。 「殺人マシーン」を量産する「軍隊」の、極めて合理的だが、それ故に苛酷なる短期集中の特殊な新兵訓練を…

レスラー('08)  ダーレン・アロノフスキー <「何者か」であり続けることを捨てられない男の究極の選択肢>

序 シンプルな情感ラインで描き切った、武骨な男の孤独の悲哀 全てを失った男が、自分の「墓場」と決めた場所で昇天する。 そこに至るまでのプロセスに、人生の哀感が存分に詰まっていて、それが観る者の心を痛々しく、切ないまでに騒がせるのだ。 そんな映…

クレイジー・ハート('09) スコット・クーパー <闇深き病理への治癒の困難さを、簡単にスル―してしまう物語の安直さ>

1 「男の生きざま」という、「物語の芯」の脆弱さ ハリウッド映画の浮薄さを曝け出した、凡作の極みのような一篇。 地の果てまでも続くと思わせる、広い大地の遥か上空を占有する、ゆったりと流れる雲と抜けるような青空。 この大自然を背景にして、白人開…

4分間のピアニスト('06)  クリス・クラウス <「表現爆発」に至る物語加工の大いなる違和感>

1 簡潔な粗筋の紹介 本稿に入る前に、以下、本作の粗筋を簡潔にまとめておこう。 ピアノ教師として女子刑務所に赴任して来た80歳のクリューガーは、新入りのジェニーが机を鍵盤代わりにして指を動かす姿を見て、一瞬にして抜きん出た才能を認知する。 「…

ピアニスト('01)  ミヒャエル・ハネケ <「強いられて、仮構された〈生〉」への苛烈極まる破壊力>

1 「父権」を行使する母との「権力関係」の中で 母の夢であったコンサートピアニストになるという、それ以外にない目的の故に形成された、実質的に「父権」を行使する母との「権力関係」の中で、異性関係どころか、同性との関係構築さえも許容されなかった…

多摩森林科学園の春

JR高尾駅で下車し、北口から10分ほど歩けば辿り着く多摩森林科学園。 かつて浅川実験林と呼ばれていた頃から、サクラ保存林として名高い件の多摩森林科学園に、私は殆ど毎年のように通い詰めていた。 当時は入園料もなく、入口でサインするだけで8haも…

陽春を歩く(その2)

小金井公園 ―― さすがに国営昭和記念公園の広大な面積には及ばない(2分の1)が、日比谷公園の5倍近く、上野公園の1.4倍もある都立公園である。 戦前から玉川上水沿いに咲く「小金井桜」として、その名を馳せてきた桜の名所は今も健在である。 ソメイヨ…

運動靴と赤い金魚('97) マジッド・マジディ <順位を予約して走る少年の甘さにお灸を据えた適性なるリアリズム>

この日、小学校高学年のアリ少年は、八百屋で買い物をしているとき、修繕したばかりの妹ザーラの運動靴を紛失してしまう。 八百屋の前を通りかかった屑屋さんが、ゴミと一緒に、運動靴の入った袋を持っていってしまったのだが、そんなこととは露知らず、アリ…