2011-05-01から1ヶ月間の記事一覧
1 「肉欲の満足で別人になりたい」と吐露する娘の大いなる戸惑い 父親から「プリンセス」などと呼ばれるほど溺愛され、我がまま放題に育った娘が、一緒にいるだけで「安寧」をもたらす感情を、「異性愛」と朧(おぼろ)げに考えていて、一抹の不安を抱えな…
昭和21年初冬。 一人の女が仏印(仏領インドシナ=現在のベトナム)から単身引き揚げて来た。まもなく女は、代々木上原にある男の家を訪ねていく。 焼け跡の東京の風景は、この国の他の都市の多くがそうであったように、あまりに荒涼としていた。 そこだけ…
1 「決定的構図」を構築できる「イメージ喚起力」の豊潤さ 些か面倒臭いカテゴリー分類だが、本作は、「こうのとり、たちずさんで」(1991年製作)、「ユリシーズの瞳」(1996年製作)へと続く「国境三部作」の第一作であると同時に、「蜂の旅人」…
1 編集マジックによって蘇生した「劇場公開版」 「グレートハンティング」(1975年製作)、「ポール・ポジション」(1979年製作)「ウイニングラン」(1983年製作)という、ドキュメンタリー作品を作ったイタリア映画の監督がいる。 彼の名は、…
本作の主人公であるマイケルの、幸薄き曲折的な人生を思うとき、彼の「絶対経験」の圧倒的な把握力について、複雑な心情に駆られて止まないのである。 決して、彼の優柔不断な人生を責めるつもりは毛頭ないし、その資格もない。 彼は、彼なりに信じた思いを…
1 “責任”という名において 世界恐慌直前の、1920年代のロサンゼルス。 ローリング・トゥエンティーズ(狂騒の20年代)とも称され、ヘミングウェイやフィッツジェラルドに代表されるロストジェネレーション(失われた世代)や、幾何学的様式の美術で有…
本作の最も重要な人物の一人である、北朝鮮軍のギョンピル中士は、子犬を追って来たウジン戦士と共に葦の茂みに踏み込んだとき、信じ難き光景を目撃した。誤って38度線を越えた韓国軍部隊にあって、地雷を踏んで身動きできない兵士と遭遇したのである。 そ…
1 「愛は私の宗教」と断じる女の、「妄想性認知」という病理に近い何ものか 「もはや嫉妬もない。自尊心も捨てた。でも、愛は私に微笑まず、顰(しか)め面をするだけ。売春婦で苦しむ女たち。結婚に悩む女たち。女たちに自由と尊厳を与えること。頭には思…
その家は、大雨が降ると浸水する危険性と隣り合わせの古い家屋だった。 主人公の名は、緒方隆吉。日本橋の足袋問屋に勤める中年のサラシーマンである。その妻、弘子は戦災未亡人で、緒方とは再婚の夫婦の関係を、今のところ取りあえず問題なく営んでいる。二…
1 感覚を突き抜けていく映像作家 北野武は、「感覚を突き抜けていく映像作家」である。 単に、感覚を大切にする映像作家ではない。 突き抜けていくほどに「自分の感覚」を信じ、それをカット繋ぎの技巧によって、削って、削って、削り抜いて残った絵柄のみ…
1 総合芸術としての映像表現技法の独壇場 ストーリーライン① 風花のように綿毛が空を舞って、北部イタリアの小さな港町を白で覆い尽くす季節が、今年もやってきた。春の訪れを告げる綿毛の舞である。 冬を象徴する魔女の人形に火をつけ、それを燃やし、爆竹…
1 欲望の稜線を無限に伸ばして疲弊するだけの人間の、限りなく本質的な脆弱性 アルカーイダのテロネットワークの存在を見ても分るように、いつの時代でも、テロの連鎖はやがてテロそのものが自己目的化し、肥大化し、過激化していく。 本作の中で描かれたテ…
1 「叙情」と「緊張」という二つの「視聴覚の刺激効果」を挿入する〈愛〉の揺曳 クレイジーラブやミラクルラブが溢れ返る映画に馴致し過ぎてしまうと、何とも退屈な映画にしか見えないことを再認識させられる一篇。 しかし、このような私的事情を抱える男…
1 「相互の共存性」を求める者の心情世界に近づいて 「『道』は非常に根深い対立、不幸、郷愁、時の流れ去る予感などを語った映画で、一つ一つが社会問題や政治的責務に還元できるわけではなかった。だからネオリアリズムの熱狂に支配されていた時代に、退…
1 電光一閃によって晒された「想像の快楽」という名のゲーム この映画は、自己完結的なゲームを愉悦する男の幻想の世界に、そのゲームのヒロインである女の身体が唐突に侵入することで、「非日常の日常化」を作り出していた寡黙な男の、そこだけは充分に特…
1 「定着からの戦略的離脱」としての「青春の一人旅」 「青春の一人旅」には、様々な「形」があるが、少なくとも、「自己を内視する知的過程」に関わる旅の本質を、「移動を繋ぐ非日常」による「定着からの戦略的離脱」であると、私は把握している。 そして…
1 記録映画作家としての力量の脆弱さ 人の心は面白いものである。 自分の生活世界と無縁な辺りで、それが明瞭に日常性と切れた分だけ新鮮な情報的価値を持ち、且つ、そこに多分にアナクロ的な観劇的要素が含まれているのを感覚的に捕捉してしまうと、「よく…
1 視界の見えない未知のゾーンから生還したアファーメーション 殆どそこにしか辿り着かないと思えるような、アッパーで、脱規範的な流れ方があって、その流れを自覚的な防衛機構によって囲い込む機能を麻痺させた結果、そこにしか辿り着かない地平に最近接…
どう考えても、本作のテーマは、ヒロインである渡辺博子の人格を深々と呪縛する自我に張り付く原因子を、「グリーフワーク」に向けてソフトランディングさせていくプロセスと、その克服と再生を描くもの。 それは、以下のエピソードによって判然とするだろう…
1 グリーフワークの軟着点を予約させる風景の中へ 「B・デイビス(注1)、G・ローランズ、R・シュナイダー 女優を演じた女優たち。全ての演じた女優たち。女になった男たち。母になりたい人々。そして、私の母に捧げる」 これが、エンドロールで重なっ…
「実録」と銘打った物語の後半のクライマックスである、「あさま山荘」を描いた一連のシークエンスから掘り起こしたい。 あまりに著名な事件だから詳細な説明は省くが、そこに5人の「革命戦士」がこもっていたことは、当時を知る者には鮮明な記憶をなお残し…
1 アーリー・スモール・サクセスを遥かに超えた、ビギナーズラックという最適消費点 人並みの希望を持ち、人並みの悲哀を味わって、日々に呼吸を繋ぐごく普通の人々が、その日常性の枠内で、心地良い刺激をごく普通に求めるとき、まさにそのニーズを保証す…
1 「Kramer vs. Kramer」という原題の意味するもの ① この映画から、私が感じ取った率直な感懐を書いていく。 それは、我が子の親権を巡って、人事訴訟を起こすに至った元夫婦が、相互の弁護士による攻撃的でハードな応酬によって出来した局面にインボルブ…
1 「秘密と嘘」を作り出す、防衛的自我の稜線を伸ばす行為の危うさ 家族とは、分娩と育児による世代間継承という役割を除けば、「パンと心の共同体」である、と私は考えている。 然るに、現代家族の多くは今、「パンの共同体」という役割が絶対的な価値を…
大地の声を子守にして生きてきた十三歳の少女の人生が、祖母の死によって激変する。 「人を信じるな」という祖母の戒めは、自分が亡き後の孫娘の将来を案じての教えだったが、「海を見せてやる」という人買いの狡猾な口車に乗せられて、少女は瀬戸内の小島に…
1 5点のうちに要約できる映画の凄さ この映画の凄いところは、以下の5点のうちに要約できると思う。 その1 観る者にカタルシスを保証する、ハリウッド的な「英雄譚」に流さなかったこと。 その2 人物造形を「善悪二元論」のうちに類型化しなかったこと…
1 米軍捕虜生体解剖事件 二人の若者がいる。 一人は沈鬱な表情の内に、重苦しい言葉を搾り出す。もう一人は、相手の深刻な表情を嘲笑うかのようにして、そこで搾り出された言葉を確信的に退ける。 映像は、二人の噛み合わない会話の中に最も重いテーマを乗…
1 「思春期爆発」に流れない、「思春期氾濫」の「小さな騒ぎ」の物語 島根県の分校を舞台にした、天然キャラのヒロインの、純朴で心優しきキャラクターを、観る者に決定付けた重要なシーンがある。 天然キャラのヒロインの名は、右田そよ(以下、そよ)。 …
時代劇といえば、戦後の東映のオハコの娯楽映画のエース。 しかし、長屋の住人の脳天気さという印象を相対化させてしまう程に、ここに描かれる際限なく陰鬱な江戸期の人々の描写のイメージは、まもなく前線に放り込まれる運命にあった27歳の青年監督の、そ…
1 「距離の武術」としての「アイキ」の体現者 合気道―― 「理念的には力による争いや勝ち負けを否定し、合気道の技を通して敵との対立を解消し、自然宇宙との『和合』『万有愛護』を実現するような境地に至ることを理想としている。主流会派である合気会が試…