2012-07-01から1ヶ月間の記事一覧

優しい文化

一体、この国の人たちは、いつ頃から、このように、「感動」への渇望感を意識し、それを常に埋めようと騒ぎ出すようになったのだろうか。(写真はスローフードのロゴマーク) 思えば、「一児豪華主義」の社会的定着の中で、生まれついたときから、「この眼に…

この国の「闘争心」の形

1 序 ―― その場凌ぎのリアリズム この国では、しばしば、結果よりもモチーフの純度こそ評価される傾向があるという指摘は多い。 極端に言えば、この国では「何をしたか」によってではなく、「何をしようとしたか」によって人間の価値が決まるのであり、その…

情感的軟着点によって雲散霧消した「岡田JAPAN」 ―― その風景のくすんだ変色

1 敗者をも特定する「近代スポーツの本質」 「曖昧な国の、曖昧な文化」の欺瞞性に地団駄を踏んでいたとき、偶(たま)さか、同時進行で「サッカーW杯南アフリカ大会」のテレビ中継があった。 テレビ中継は、大方の予想を裏切って、我が国は1次リーグを2…

映画の中の決め台詞  その1  〈欺瞞を撃ち抜く台詞集〉

序 「“機銃を浴びせて手当てする”―― 欺瞞だ。見れば見るほど、欺瞞に胸がムカついた」 「 友愛外交というのは難しいテーマではありますが、それを現実に行ってきたのがヨーロッパ、EU(欧州連合)であることを考えたときに、敵視し合っていたフランスとド…

イデオロギーは人間をダメにする

イム・グォンテクという、シネフィルにはよく知られた映画監督がいる(写真)。 「韓国映画の良心」とも評価し得るような、一代の巨匠である。 「1936年5月2日、全羅南道長城生まれ。第二次世界大戦直後の左右抗争の時代、イム・グォンテク一族の多く…

「脆弱性」―― 心の風景の深奥 或いは、「虚偽自白」の心理学

こんな状況を仮定してみよう。 まだ眠気が残る早朝、寝床の中に体が埋まっていて、およそ覚醒とは無縁な半睡気分下に、突然、見たこともない男たちが乱入して来て、何某かの事件の容疑事実を告げるや、殆ど着の身着のままの状態で、有無を言わさず、そのまま…

魔境に入る者

かつて私は、練馬区西大泉町の住宅街の一角で長きに及んで学習塾を運営してきたが、その時代に出来した一つの事件について書いてみる。(写真は西武鉄道池袋線・大泉学園駅) 平穏な日常性で安定的に推移していたが、一つだけ近隣に起こった事件で、今なお気…

赦しの心理学

人が人を赦そうとするとき、それは人を赦そうという過程を開くということである。(画像は、「赦し」をテーマにした映画・「息子のまなざし」より) 人を赦そうという過程を開くということは、人を赦そうという過程を開かねばならないほどの思いが、人を赦そ…

遅れてきた「反抗的なエロス青年」 ―― その情感系の暴走

「卒業して いったい何解ると言うのか 想い出のほかに 何が残るというのか 人は誰も縛られた かよわき子羊ならば 先生あなたは かよわき大人の代弁者なのか 俺達の怒り どこへ向うべきなのか これからは 何が俺を縛りつけるだろう あと何度自分自身 卒業すれ…

豊かさは共同体を破壊する

15~16世紀のヨーロッパ経済の出現は、他の文明を圧倒し、ひとり資本主義的発展のコースに踏み出してしまった。ここから、あらゆるものが変貌を遂げていく。 16世紀から18世紀にかけて展開された、手工業生産中心のプロト工業化を経て、18世紀後半…

ゲームの強迫

高度成長以降、この国は大きく変わってしまった。(写真は集団就職の風景) 固形石鹸で髪を洗っていた時代は、永遠に戻らない。あの頃私たちは、近隣から洩れ聞こえてくるピアノの音色に、何の反応も示さなかった。 思えば、終戦から間もない1949年に制…

怨みの連鎖

占領軍がやって来た。 あっという間に、空気が変色した。先遣隊(注1)を送り出して、敗戦日本の実情をリサーチするほどに入念だったマッカーサー(写真)の警戒心は、敗戦国民のあまりの従順さにあっさりと氷解したのである。 この国の人々は、要求もしない…

男の虚栄、女の虚栄

この国の男たちは、自分たちの非決断を簡単に認めないように見える。 女に渡したヘゲモニーを奪い返すつもりもない。権威に依拠する覚悟にも欠ける。権威を継続させるには相当のエネルギーがいるからだ。そこまで疲れたくないのである。 家庭は癒しの場所で…

規範の崩れ

規範意識の衰弱化という現象が、今、最も集中的に見られる場所は学校空間である。 常に学齢期に達したというだけで、義務教育という名の下で、地域の子供たちが地域の学校に通学するという近代公教育百年余の歴史がなお続いている。 何より、規範意識の衰弱…

神の如き親心

子供たちの外界への適応許容ラインは、身体のレベルに決してとどまるものではない。それは私が、「寒暖差5℃の世界」(注)と呼ぶところのものである 幼少時より注目され、抱えられ、様々なる抗菌グッズにより庇護されてきた、この国の子供たちの自我は、彼…

現代家族の風景

物理的共存を深めるほど、関係は中性化する。これが関係の基本命題である、と私は殆ど独断的に考えている。 中性化とは、一言で要約すれば、「性の脱色化」である。 夫婦と子供二人という核家族の中で、この中性化=「性の脱色化」という現象が多元的に、部…

愛の深さ(二)

恋愛は愛の王道ではない。(写真は、イングマール・ベルイマン監督の「ある結婚の風景」) 邪道であるとは言わないが、少なくとも、それが「究極の愛」ではないことは確かである。それは単に、愛の多様な要素が濃密に集合しただけである。或いは、それがもた…

愛の深さ(一)

愛とは「共存感情」であり、「援助感情」であると喝破したのは、現代アメリカの心理学者のルヴィン(注1)である。彼はそのことを、度重なる心理実験によって確信を得たのである。(絵画は グスタフ・クリムトの「接吻」) これは、心理学重要実験のデータ本…

愛される権利

人間には、人を愛する自由はあるが、人から愛されるという権利はない、と書いた人がいた。 しかし子供だけには、愛される権利というものがある。子供は愛されることがないと、健全なナルシズムが育たないのである。「母に愛される自己」を愛することができる…

関係の破綻

関係は構築するのに難しく、破壊するのに造作はいらない。構築するのに要したあの厖大なエネルギーに比べて、破壊されていくときのあの余りの呆気なさに形容する言葉がない。 この目立ったアンバランスさこそ、関係の言い知れない妙であり、或いは、真骨頂で…

人格変容

人は死別による喪失感からの蘇生には、しばしばグリーフワーク(愛する者を失った悲嘆から回復するプロセス)を必要とせざるを得ないほどに記憶を解毒させるための時間を要するが、裏切り等による一時的な内部空洞感を埋める熱量は次々に澎湃(ほうはい)し…

英雄の戦後史

英雄を必要とする国は不幸である、と言った劇作家がいた。英雄を必要とするのは、国家が危機であるからだ。しかし国家が危機になっても、英雄が出現しない国はもっと不幸である。なぜなら、英雄が出現しないほどに国民が危機になっているからだ。 英雄を必要…

魔境への誘い

ハレとケ。 日常性の向うに、それを脅かすパワーを内包する、幾つかの尖った非日常的な世界がある。上手に駆使することで日常性を潤わせ、その日常性に区切りを付け、自我に自己完結感を届けさせてくれるような微毒な快楽がそこに含まれているので、それは人…

不眠という病理

近年、睡眠に関する研究は飛躍的に進んできて、多くの事柄が科学的に解明されてきているようだが、私たちに最も身近な、不眠に関する研究に関しては、ようやく緒についたらしい。(写真はヘリコプターから眺めた東京の夜景) 不眠を科学的に説明し、その解決…

恥じらいながら偽善に酔う

阪神大震災(写真)は、眼を覆わんばかりの悲惨の後に、無数の人々の善意が圧倒的な集合力を誇示して見せて、無念にも、そこに集合を果たせなかった人々のハートフルな胸を幾分撫(な)で下ろさせたようである。この国の戦後の、「心の荒廃」を本気で信じて…

失敗のリピーター

心理学者、岸田秀(写真)の言葉に、「失敗は失敗のもと」という卓見がある。 とても説得力のある言葉である。 失敗をするには失敗をするだけの理由があり、それをきちんと分析し、反省し、学習しなければ、かなりの確率で人は同じことを繰り返してしまうと…

「連合赤軍」という闇 ― 自我を裂き、削り抜いた「箱庭の恐怖」  補論

補論 「権力関係の陥穽」 人間の問題で最も厄介な問題の一つは、権力関係の問題である。権力関係はどこにでも発生し、見えない所で人々を動かしているから厄介なのである。 権力関係とは、極めて持続性を持った支配・服従の心理的関係でもある。この関係は、…

「連合赤軍」という闇 ― 自我を裂き、削り抜いた「箱庭の恐怖」  5

5.魔境に搦め捕られた男の「自己総括」 稿の最後に、「連合赤軍」という闇を作り上げた男についてのエピソードを、ついでに記しておく。永田洋子と共に、仲間が集合しているだろう妙義山中(写真)の洞窟に踏み入って行った森恒夫は、そこに散乱したアジト…

「連合赤軍」という闇 ― 自我を裂き、削り抜いた「箱庭の恐怖」  4

4.恐怖越えの先に待つ世界 しかし兵士たちの山越えは、兵士たちの運命を分けていく。 時間を奪還できずに捕縛される者と、銃撃戦という絶望的だが、せめてそれがあることによって、失いかけた「革命戦士」の物語を奪還できる望みがある者との差は、単に運…

「連合赤軍」という闇 ― 自我を裂き、削り抜いた「箱庭の恐怖」  3

3.箱庭の恐怖 ある人間が、次第に自分の行動に虚しさを覚えたとする。 彼が基本的に自由であったなら、行動を放棄しないまでも、その行動の有効性を点検するために行動を減速させたり、一時的に中断したりするだろう。 ところが、行動の有効性の点検という…