#その他文化活動

それまで手に入れた社会的な価値と、失ったものの精神的な価値の大きさが葛藤し、「約束された喪失感」に捕捉されていく

1 「正しいと信じ切る能力の強さ」を具現化していった代償としての、支払ったものの大きさ 「大切なのは、生き方よ」 彼女は、そう言い切った。 「“考え”が“言葉”になる。その“言葉”が“行動”になる。その“行動”が、やがて“習慣”になる。“習慣”が、その人の“…

日本国憲法の「平和主義」 ―― その「ダブルバインド状況」の居心地の悪さ

1 「ダブルバインド状況」の破壊力 アメリカの文化人類学者・グレゴリー・ベイトソンは、戦後まもなく、精神病棟でのフィールドワークで、患者さんの心身に惹起するプロセスの変化に注目し、その貴重な経験から「ダブルバインド理論」という、今では普通に…

映像化された「語りもの」の逸品が、奇跡的な「復讐・再会譚」として炸裂する

1 「盗賊の群れが津波のように荒し回らぬ夜はない」 網野善彦(中世日本史を専攻する歴史学者)が提唱した「荘園公領制」という重要な概念がある。 貴族や寺社、豪族などの私有地である荘園の広がりによって、律令国家の理想である「公地公民制」(全ての土…

「無償の愛」という幻想の本質は「ギブ&テイク」である

1 「無償の愛」という幻想の本質は「ギブ&テイク」である 「無償の愛」 ―― 相当に手垢がついた言葉だが、安楽死していない現実も頷(うなず)ける。 それを素朴に信じる人・信じたいと思う人が、世代を超えて繋がっているからである。 多くの宗教家は無論…

犯罪被害者のグリーフワーク ―― その茨の道の壮絶な風景

1 「犯罪被害者は泣き寝入りしてはならない」 「犯罪被害者等基本法」という法律がある。 「犯罪被害者等の多くは、これまでその権利が尊重されてきたとは言い難いばかりか、十分な支援を受けられず、社会において孤立することを余儀なくされてきた。さらに…

「蟻の一穴」から堤も崩れる

ムハンマド(マホメット)の血統重視のシーア派に対し、ムハンマドの教えを重視するスンニ派(スンナ派)のイスラム原理主義・ワッハーブ派を国教としているサウジアラビア。 言ってみれば、「コーラン至上主義」に拠って立っているが故に、サウド家の支配に…

「夢を見る能力」の凄みが「夢を具現する能力」を引き寄せ、蓄電し、炸裂する

1 「夢を見る能力」と「夢を具現する能力」 私がよく使う言い回しだが、夢には2種類ある。 「夢を見る能力」と「夢を具現する能力」である。 「夢を見る能力」が「夢を具現する能力」にシフトするには、それまでの自己基準的なリアリズムの枠内では収まり…

白鵬は日本の大相撲界の救世主である

1 「離れてよし」・ 「組んでよし」という「安定的立脚点」に着地したと信じる男 勝負は一瞬で決まった。 世の大相撲ファンに鮮烈な印象を与えた取組は、白鵬と新関脇の勢(いきおい)の相撲。 2016年5月16日、夏場所(五月場所)でのことだ。 場所…

欲望の稜線が天を衝き、怒涛の逆巻く世紀の風景

1 「昔風」の社会は「当世風」の社会によってアウフヘーベンされていく 「今の世は最悪だ・・・・」・「今の若者はなってない・・・」という常套フレーズが、人類史を貫流させてきた現象の滑稽さを、私は今更のように感受する。 ここで私は、柳田国男の興味深い一…

教育とは自由の使い方を教えることである

1 よりマシな大人の介在が子供の〈自由〉を保証する 「子供の非行は全て大人が作る」という一般に流布された把握に、相当の真実性があることを認めることは、子供が「快・不快の原理」を延長させ、「好き放題」に生きるという立ち入り禁止の「子供共和国」…

振れ幅の大きい複雑な人間が縋り付く、ごく普通のサイズのヒューマニズムに収斂される「弱さの中のエゴイズム」 ―― 映画「羅生門」の本質

1 高貴な侍夫婦が深い森の奥を通りかかった時、その事件は起こった 邦画史上、最高の作品を選べと言われたら、私は躊躇なく、以下の3作を挙げるだろう。 成瀬巳喜男監督の「浮雲」・今村昌平監督の「赤い殺意」、そして、本稿で言及する黒澤明監督の「羅生…

それ以外にない場所を持ち、それ以外にない人生を生き、そして土に還っていく ――  或いは、共同体の底力

1 大旱魃から県民を救った讃岐農民の血の滲むような努力 瀬戸内海の小島に「農業滞在型農園施設」(ラントゥレーベン大三島=今治市滞在型農園施設)というスポットがあり、そこに都会生活をしていたプログラマーが移住し、3年間、島の人たちとの交流を通…

認知症罹患者の辛さの本質は、「約束された喪失感」を意識することの恐怖にある

1 「癌ならよかった。癌だったら恥ずかしくない。癌なら皆で、ピンクリボンをつけて、募金活動をするから、感じなくて済むわ」 日常生活に破綻をきたさない軽度認知障害(MCI)と切れ、ニューロン(脳の神経細胞)の脱落(人の脳の委縮は20~30歳を…

三段跳びをやってのけた男 ―― 文化大革命という狂気を越えて

1 三段跳びをやってのけた男 ―― 文化大 革命という狂気を越えて 蒋介石に忠誠を誓った国民党の青年将校がいた。 ソビエト連邦政府が支援する共産党との国共内戦での敗退によって、台湾に脱出した蒋介石に随行せず、同様に、国民党の軍人である叔父が殺害さ…

映画「花様年華」における究極ののエロティシズム

序 「21世紀の偉大な映画ベスト100」の慧眼なる評価 2016年8月に、英BBCが企画した、「21世紀の偉大な映画ベスト100」が発表された。 36の国と地域から177人の映画評論家がベスト10を提出。各1位に10点、2位に9点とポイントを…

極限状態に放り込まれた人間の復元困難な脆弱性

1 人間が人間であることの根源性が問われ、究極の試練に押し込まれていく 「大東亜戦争」という名で閣議決定された太平洋戦争は、人間が人間であることの根源性が問われる「内なる戦争」だった。 太平洋の島々に置き去りにされ、食糧の供給を断たれた下士官…

ストーキングは「心理的テロリズム」である

1 「被害者にも非がある」という偏見に満ちた決めつけ アメリカ・カリフォルニア州に、リチャード・ファーレーという男がいた。 システムや技術開発を行う最先端企業に入社し、7年目になる海軍出身のエリート社員だが、そこで知り合った女性に想いを寄せ、…

受難の文学としての「源氏物語」 ―― その解放の雄叫び

1 受難の文学としての「源氏物語」 ―― その解放の雄叫び 日本近代史の中で、「源氏物語」は受難の文学だった。 「庶民感覚から遊離した『有閑階級の文学』」という理由で、プロレタリア文学から批判の矛先を向けられ、「ごく普通の人生を生きる者としての人…

麻薬撲滅 ―― その壮絶な戦争の底なしの闇の深さ

1 勇敢であることは、殉職する覚悟を持つことである 「あの連中は自分で治療します。勝手にオーバーユーズ(過剰摂取)し、死んでくれます」 これは、映画「トラフィック」(スティーブン・ソダーバーグ監督)の中で、敵対組織のオブレゴンを潰すために組織…

苛酷な氷河時代を生き抜き、優れた洞窟壁画を残したクロマニヨン人の、その誇るべき強さと表現力

1 「人間らしさ」とは世界に上手く適応できること ―― クロマニヨン人の狡猾なまでの生き延び戦略 アフリカ大陸東部から死海に至るまで、南北に縦断するプレート境界となる 大地溝帯・グレート・リフト・バレーこそが「人類生誕の地」と呼ばれていた、揺るぎ…

インセスト ―― その底層に澱む自我の歪みの本質

現代社会において、「人類最後のタブー」と言われるインセスト・タブーについて言及したい。 2年以下の禁固刑と定められているドイツの「近親相姦罪」(近親婚を認知する動きあり)が有名だが、日本では、明治時代に消滅して以来、近親相姦を罰する法は存在…

人生は自助努力半分、あとは「運・不運」の問題である

1 「私たちは、神に頼らず、自力でここまで来た!助けは請わない。だから邪魔するな!」 ―― 物語の簡単な粗筋 大晦日の夜。 豪華客船が航海の途中、多くの客が乗り合わせていた渦中に巨大な津波が押し寄せ、豪華客船は一瞬にして転覆してしまう。 パニック…

何度でも「居場所」を替えて手に入れる「物語」への、小さくも捨てられない旅

1 過分な夢などなくても、充分生きていけるのだ かつて、私たちが村落共同体にその身を預けていた頃は、産まれたとき、既にもう、人生の先が見えていて、その一生のサイクルも見通せてしまったが、特に誰もそれに異議を唱える者はいなかった。 人は皆、それ…

ベトナム戦争とは何だったのか

1 「防衛性・攻撃的大義」と、「攻撃性(侵略性)・防衛的大義」 「防衛性・攻撃的大義」と、「攻撃性(侵略性)・防衛的大義」。 分りにくいが、私の造語である。 「大義」という概念を説明する際に、色々、利用可能であると考えているが、ここでは、ベト…

人は、なぜ怒るのか

1 オスたちの「怒り」を吸収するボノボのメスの結束力 ボノボという霊長類がいる。 感情移入能力が最も高いと看做(みな)されている大型類人猿である。 コンゴ民主共和国の保護区に2万頭が生息し、チンパンジーに一番近い類人猿(ヒト科チンパンジー属)…

人間は限りなく酷薄に、愚かになり得る

カンボジア発の「キリング・フィールド」(殺戮の野)は、現代史が生んだ最悪なる負の遺産の一つである。 それは僅か4、5年という短い時間の中で、あろうことか、自国民に対する大量殺戮の蛮行を、まさに自国の歴史にどす黒く刻んでしまったのである。 そし…

西瓜を盗んだだけで首を吊るされた黒人たちの闘いの歴史

「黒人は人間ではない」 ―― 南部白人の対黒人観のスタートライン ルイジアナ州ニューオリンズ。 映画「それでも夜は明ける」の主人公・ソロモンが騙されて売り飛ばされた、合衆国最大の奴隷市場(競売市場)、且つ、奴隷売却地である。 ここで、1840年時…

嫉妬感情の心理学

1 嫉妬感情とは何か 私たちは、自らが心積もりをし、期待していた利益を獲得できなければ、悔しい思いをする。 悔しい思いをしても、その思いを推進力にすれば、次の機会に挑戦できる可能性がある。 そのように解釈し、一過的に自己完結できる人は幸せであ…

ハンセン病差別の暗くて深い闇 ―― その風景の途方もない凄惨さ

1 日本のアウシュヴィッツ 「私は義憤を感じた。この恥ずべき病者を多くもっていることは文明国の恥である。さらにそれを街頭にさらして何の方法もとらないことは、何という情けないことであろう。 ― 即ちライは、最愛の家族に感染させてその生命をほろぼす…

軽視してはならない鬱病の破壊力

鬱病とは、一体、何だろうか。 改めて、それを考えてみる。 まず、発症率が3~5%と言われるほどに高い、鬱病のメカニズムが、未だ、現在の医学では充分に解明されていないという現実を理解する必要があるということ ―― 残念ながら、私たちは、この事実を…